TORENDIA
お伽草紙
太宰治
TORENDIA
お伽草紙
本文約70,800字 ・ 読了時間 約142分
あらすじ(AIが作成しました)
「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ山」「舌切雀」など、昔話を、太宰流の独自の解釈で語り直した作品集。
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「あ、鳴つた。」
と言つて、父はペンを置いて立ち上る。警報くらゐでは立ち上らぬのだが、高射砲が鳴り出すと、仕事をやめて、五歳の女の子に防空頭巾をかぶせ、これを抱きかかへて防空壕にはひる。既に、母は二歳の男の子を背負つて壕の奥にうずくまつてゐる。
「近いやうだね。」
「ええ。どうも、この壕は窮屈で。」
「さうかね。」と父は不満さうに、「しかし、これくらゐで、ちやうどいいのだよ。あまり深いと生埋めの危険がある。」
「でも、もすこし広くしてもいいでせう。」
「うむ、まあ、さうだが、いまは土が凍つて固くなつてゐるから掘るのが困難だ。そのうちに、」などあいまいな事を言つて、母をだまらせ、ラジオの防空情報に耳を澄ます。
母の苦情が一段落すると、こんどは、五歳の女の子が、もう壕から出ませう、と主張しはじめる。これをなだめる唯一の手段は絵本だ。桃太郎、カチカチ山、舌切雀、瘤取り、浦島さんなど、父は子供に読んで聞かせる。
この父は服装もまづしく、容貌も愚なるに似てゐるが、しかし、元来ただものでないのである。物語を創作するといふまことに奇異なる術を体得してゐる男なのだ。
ムカシ ムカシノオ話ヨ
などと、間の抜けたやうな妙な声で絵本を読んでやりながらも、その胸中には、またおのづから別個の物語が醸せられてゐるのである。
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瘤取り
ムカシ ムカシノオ話ヨ
ミギノ ホホニ ジヤマツケナ
コブヲ モツテル オヂイサン
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