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TORENDIA

愛撫

本文約2,800字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

猫の耳への執拗な空想を抱く語り手は、ある日その耳を噛むことで痛みの真実を発見し、長年の空想を壊す。さらに、爪を抜かれた猫が自信を失い衰弱していく姿を夢想し、その活力の源泉たる爪に思いを馳せる。ある時は、猫の手を化粧道具として利用する女の残酷さに戦慄しつつも、自身の眼に猫の柔らかい前足をあてがうことでこの世ならぬ休息を見出す。本書は、猫という存在に向けられた愛着と、そこに潜む残酷な空想や美的感受性を綴る。

梶井基次郎

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🎧 愛撫 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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猫の耳というものはまことに可笑しなものである。薄べったくて、冷たくて、竹の子の皮のように、表には絨毛が生えていて、裏はピカピカしている。硬いような、柔らかいような、なんともいえない一種特別の物質である。私は子供のときから、猫の耳というと、一度「切符切り」でパチンとやってみたくて堪らなかった。これは残酷な空想だろうか?

否。まったく猫の耳の持っている一種不可思議な示唆力によるのである。私は、家へ来たある謹厳な客が、膝へあがって来た仔猫の耳を、話をしながら、しきりに抓っていた光景を忘れることができない。

このような疑惑は思いの外に執念深いものである。「切符切り」でパチンとやるというような、児戯に類した空想も、思い切って行為に移さない限り、われわれのアンニュイのなかに、外観上の年齢を遙かにながく生き延びる。とっくに分別のできた大人が、今もなお熱心に――厚紙でサンドウィッチのように挾んだうえから一思いに切ってみたら? ――こんなことを考えているのである! ところが、最近、ふとしたことから、この空想の致命的な誤算が曝露してしまった。

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