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TORENDIA

不幸

本文約4,000字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

夫の転勤により大阪から東京へ移り住んだ母親は、寒空の下で遊びに出たまま帰らぬ二人の息子を待ちわびる。慣れぬ土地での孤独と、放蕩な夫への絶望を抱える彼女は、子供たちの身を案じ極度の不安に襲われる。近所を巡り、旅館へ電話をかけようと家を留守にする中、荒れた部屋には酒に溺れた夫が戻り、殺伐とした空気が漂う。本作は、窮屈な生活を送る主婦の心情と、崩壊した家庭の光景を描く。

梶井基次郎

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🎧 不幸 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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第二稿

師走のある寒い夜のことである。

閉め切った戸をがたごと鳴らしながら吹き過ぎる怖ろしい風の音は母親の不安をつのらせるばかりだった。

その日は昼下りから冬の陽の衰えた薄日も射さなかった。雪こそは降り出さなかったが、その灰色をした雪雲の下に、骨を削ったような櫟や樫の木立は、寒い木枯に物凄い叫びをあげていた。

それは冬になってからの初めての寒い日で、その忍従な母親にもあてのない憤りを起させる程の寒さだった。彼女には実際その打って変ったような寒さが腹立たしく感ぜられたのである。天候に人間の意志が働き得ないことは彼女とて知っていた。そうだったらこの憤懣は〔欠〕――彼女達の一家はこの半月程前に、すみなれた大阪から、空風と霜どけの東京の高台の町へ引越して来たばかりだった。

主人の放蕩、女狂い、酒乱がそれまでにとにかく得て来た彼の地位を崩してしまった。そして彼は東京の本店詰めにされ、おまけにその振わない位地へ移されたのだった。彼はそれがある同僚の中傷に原因しているのだと云って彼女の前では怒っていた。しかし彼女はなにもかもみなあきらめていた。唯一つ彼女にとって未練であったのは自分の生みの父親に別れることだった。

その老人はどうしても一家と一緒に東京へ来るのを肯じなかった。それは見ず知らずの国で寂しい老後を送るよりは、知己の多い大阪で土になりたいという寂しい願いのためであった。そして強い信仰も手伝ったのだが遠い親類筋である、別懇な寺院へ住みこんでしまった。大阪駅の歩廊でその老い込んだ病身の父親に別れた時は何という寂しいことだったろう。

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