Kの昇天
本文約5,500字 ・ 読了時間 約12分
あらすじ(AIが作成しました)
療養地の海岸でKという青年に出会った語り手は、その人物の奇妙な行動を目の当たりにする。Kは月光に照らされた自身の影を凝視することで、魂が月へと昇天する感覚に憑りつかれていた。ある満月の夜、Kが海で溺死したことを知った語り手は、彼の死が現実世界から解き放たれ、影に導かれて月へと昇天しようとした結果ではないかと、その最期を回想しつつ推測する。
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お手紙によりますと、あなたはK君の溺死について、それが過失だったろうか、自殺だったろうか、自殺ならば、それが何に原因しているのだろう、あるいは不治の病をはかなんで死んだのではなかろうかと様さまに思い悩んでいられるようであります。そしてわずか一と月ほどの間に、あの療養地のN海岸で偶然にも、K君と相識ったというような、一面識もない私にお手紙をくださるようになったのだと思います。私はあなたのお手紙ではじめてK君の彼地での溺死を知ったのです。私はたいそうおどろきました。と同時に「K君はとうとう月世界へ行った」と思ったのです。どうして私がそんな奇異なことを思ったか、それを私は今ここでお話しようと思っています。それはあるいはK君の死の謎を解く一つの鍵であるかも知れないと思うからです。
それはいつ頃だったか、私がNへ行ってはじめての満月の晩です。私は病気の故でその頃夜がどうしても眠れないのでした。その晩もとうとう寝床を起きてしまいまして、幸い月夜でもあり、旅館を出て、錯落とした松樹の影を踏みながら砂浜へ出て行きました。引きあげられた漁船や、地引網を捲く轆轤などが白い砂に鮮かな影をおとしているほか、浜には何の人影もありませんでした。干潮で荒い浪が月光に砕けながらどうどうと打ち寄せていました。私は煙草をつけながら漁船のともに腰を下して海を眺めていました。夜はもうかなり更けていました。
しばらくして私が眼を砂浜の方に転じましたとき、私は砂浜に私以外のもう一人の人を発見しました。それがK君だったのです。しかしその時はK君という人を私はまだ知りませんでした。その晩、それから、はじめて私達は互いに名乗り合ったのですから。