長塚節歌集 上
本文約29,100字 ・ 読了時間 約59分
あらすじ(AIが作成しました)
明治三十一年から三十三年までの季節の移ろいや日常の風景、旅先での見聞を詠んだ歌集。庭に咲く草花、庭先に飛来する雀や鳥の姿、四季折々の天候や風景を繊細に綴る。また、平家物語や佛の山に伝わる伝説を題材とした歌も収め、自然への慈しみや古事への感慨を描く。作者が暮らしの中で出会った事象をありのままに捉え、農村の生活や風土に根ざした叙情的な世界を構成する。
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明治三十一年
暮春雨
惜しまるゝ花のこずゑもこの雨の晴れてののちや若葉なるらむ
春哀傷 林子を悼みて
ちりしみのうらみや深きみし人のなげきやおほきあたらこの花
海邊鵆
昨日こそうしほあみしか大磯のいそふく風に千鳥なくなり
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明治三十二年
元旦
若水を汲みつゝをれば標はへしふたもと松に日影のぼりぬ
菖蒲
生れしはをのこなるらむ菖蒲草ふきし軒端に幟たてたり
避暑
この夏は來よと文しておこせたる伯母がりとはむ山のあなたに
秋郊虫
萩こえし垣をまがりて右にをれて根岸すぐればむしぞなくなる
時雨
水仙の花にむしろもおほひあへず小さき庭をかせ時雨きぬ
初雪
船にねて船をいづれば曉のはつ雪しろしかけはしの上に
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明治三十三年
森
野を行けばたゞに樂しく森行けばことゝしもなく物ぞ偲ばゆ
菅の根のなが/\し日も傾きて上野の森の影よこたはる
雪中梅
睦月七日寺島村によぎりきて雪かさきたる梅あるをみつ
竹の里人をおとなひて席上に詠みける歌
歌人の竹の里人おとなへばやまひの牀に繪をかきてあり
荒庭に敷きたる板のかたはらに古鉢ならび赤き花咲く
生垣の杉の木低みとなり屋の庭の植木の青芽ふく見ゆ
茨の木の赤き芽をふく垣の上にちひさき蟲の出でゝ飛ぶ見ゆ
人の家にさへづる雀ガラス戸のそとに來て鳴け病む人のために
ガラス戸の中にうち臥す君のために草萌え出づる春を喜ぶ
古雛をかざりひゝなの繪を掛けしその床の間に向ひてすわりぬ
若草のはつかに萌ゆる庭に來て雀あさりて隣へ飛びぬ
ガラス戸のそとに飼ひ置く鳥の影のガラス戸透きて疊にうつりぬ
枝の上にとまれる小鳥君のために只一聲を鳴けよとぞ思ふ(座上の剥製の鳥あり)
四月短歌會 桃花
庭の隅に蒔きたる桃の芽をふきて三とせになりて乏しく咲きぬ
星
夜になれば星あらはれて晝になれば星消え去りて月日うつり行く
化物
ものゝけの三つ目一つ目さはにありと聞けどもいまだ見し事の無き
剥製鳥
木の枝にとまれる鳥のとまり居て逃ぐる事もなし鳴く事もなし
竹の里人に山椒の芽を贈りて
山椒はくすしき木なり芽もからくその實もからくその皮もからし
鄙にあれば心やすけし人の家の垣の山椒の芽を摘みて來つ