十日間
本文約8,200字 ・ 読了時間 約17分
あらすじ(AIが作成しました)
明治三十六年の三月上旬、日記の著者は冷水浴で始まる日々の生活を綴る。庭の梅を愛で、即興の歌を詠み、妹の婚礼準備に慌ただしい家族の様子が描かれる。村役場での公務や地域の人々との交流、新聞で選挙結果に一喜一憂する日常が、穏やかな春の気配と共に記録される。近隣の火事や霜除けの取り外し、知人との書簡のやり取りなどを通じて、地方の風習や人々の営みが季節の移ろいの中に淡々と映し出される。
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三月二日、月曜、晴、暖、
起床平日よりはやし、冷水浴、
宵に春雨が降つたらしく屋根が濕つて居る、しかし雫する程ではない、書院の庭にしきつめてある松葉は松もんもが交つてるので目障りであるがけさは濡れて居るからいかにも心持がよい、庭下駄を穿いてぶら/\とあるく、平氏門に片寄つてさうして戸袋にくつゝいた老梅が一株は蕾がちで二株は十分に開いて居る、蕾には一つづゝ露が溜つてその露が折々松葉の上に落ちる、五片六ひら散つて松葉にひつゝいてるのが面白い、まだ散る頃ではないから大方春雨の板面であらう、空は西の方から拭つたやうに靄が禿げて日の光が竹林の上から斜にさしかゝると、溜つて居る露がかゞやいて落ちるたびにゆら/\と搖れる、子供のするやうに人指し指を曲げてその背へ蕾にかゞやいて居る露をとつて見た、こんな心持のよい朝はない、はやく起きたのが嬉しくつてたまらなかつた、即興の歌が八首、七首は立どころに成つて一首は少し苦んだ、
村の役場へ納めに行く、いま使をやつたのだが逢はなかつたといふのである、この使は納めの催促である、小使の婆さんが安火へ火を入れて呉れた、茶菓子を買ふ、ひつこき、ねぢり棒など、婆さんに少しばかり錢をやる、いらないといふとれといふ、何遍かお辭誼をした、
正午少し過ぎ歸る、
馬方二人筑波下から瓦をつけて來る、
隣村の役場へ納めに行く、赤十字社や色々な雜誌が封じた儘箱の上にのつてある、見るものゝないのがわかる、農業雜誌を借りて歸る、菓物だの草花だのゝ廣告が面白いからである、
分家の鷄が門の畑の蕪菜を荒すので垣根をゆひ直すそれでも止まない、一つひどい目を遇はしてやらうと思つてぐる/\追ひまはした、分家の厩のうしろの麁朶の中へ一羽逃げ込んだのがある、拔足して行つて棒でしたゝか突いた、空腹を感ず、
けさの歌を麓へおくる、週報の課題が春雨で麓が選者が[#「選者が」はママ]ある、二三日前に七首おくつてあるからこれで十五首になつた、跡からまた五首作つて二十首にしやうと思ふ、
夜父と母と水海道よりかへる、妹の嫁入仕度に箪笥長持などを誂へに行つたのである、手箱、金盥、傘など買つて來た、妹仕立物に忙し、