恐怖城
本文約76,300字 ・ 読了時間 約153分
あらすじ(AIが作成しました)
森谷牧場の令嬢紀久子と婚約者の松田敬二郎は、乗車した馬車で馭者の正勝が仕掛けた猟銃の罠に直面し、命の危険に晒される。その後、不穏な空気が漂う牧場で惨劇が発生する。敬二郎を失い激しい悲嘆に暮れる紀久子は、復讐心を抱く正勝と対峙し、逃げ場のない極限状態の中で狂気的な行動に出る。愛する人への想いを胸に、激しく燃え盛る火炎のなかへ突き進むまでを描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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第一章
1
森谷牧場の無蓋二輪の箱馬車は放牧場のコンクリートの門を出ると、高原地帯の新道路を一直線に走っていった。馬車には森谷家の令嬢の紀久子と、その婚約者の松田敬二郎とが乗っていた。松田敬二郎が牧場の用事で真駒内の種畜場へ出かけるのを、令嬢の紀久子が市街地まで送っていくのだった。
空は孔雀青の色を広げていた。陽は激しくぎらぎらと照りつけていた。路傍の芒が銀のように光っていた。
「眩しいわ」
紀久子は馬車の上に薄紫色のパラソルを開いた。
「冬服じゃ暑かったかしら?」
「夜になると寒いんですもの」
「暑いのはもう日中だけですね」
そして、二人はパラソルの下で身近く寄り添った。
「ほいやっ、しっ!」
馭者は長い鞭を振り上げて馬を追った。馬車はごとごと揺れながら走った。敬二郎と紀久子とはそーっと手を握り合った。
「ほいやっ!」
馭者は鞭を振り上げ振り上げては、その手を馭者台の横へ持っていった。そこには一梃の猟銃がその銃口をパラソルの下の二人のほうへ向けて、横たえられてあった。猟銃は馬車の動揺につれてひどく躍っていた。
「あら! 奇麗に紅葉しているわ。楓かしら!」
紀久子はパラソルを窄めながら言った。
「あれは山毛欅じゃないかな? 山毛欅か楡でしょう。楓ならもっと紅くなるから」
馬車はそして、原生林帯の中へ入っていった。道はそこで一面の落ち葉にうずめられ、もはや一分の地肌をも見せてはいなかった。落ち葉の海! 火の海! 一面の落ち葉は陽に映えて火のように輝いていた。そして、湿っぽい林道の両側には熊笹の藪が高くなり、熊笹の間からは闊葉樹が群立して原生樹林帯はしだいに奥暗くなっていった。暗灰褐色の樹皮が鱗状に剥き出しかけている春楡の幹、水楢、桂の灰色の肌、鵜松明樺、一面に刺のある※木[#「木+忽」、4-1]、栓木、白樺の雪白の肌、馬車は原生闊葉樹の間を午後の陽に輝きながら、ばらばらと散る紅や黄の落ち葉を浴びて、落ち葉の道の上をぼこぼこと転がっていった。
「ほいやっ、しっ!」