満韓ところどころ
本文約74,000字 ・ 読了時間 約148分
あらすじ(AIが作成しました)
旧友である満鉄総裁・中村是公の誘いを受け、著者である「余」が満洲や朝鮮を巡る旅に出るまでと、その道中を描く。出発直前の急性胃カタルによる苦悩や、旅先で遭遇した英領事の犬のエピソード、行く先々で依頼される講演に対する葛藤、そして撫順炭坑での見学など、随行旅行という非日常的な状況下で感じた見聞や内省を綴る。著者独特の視点から、異国情緒あふれる土地の風景や人々の姿をありのままに捉えた紀行文である。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
一
南満鉄道会社っていったい何をするんだいと真面目に聞いたら、満鉄の総裁も少し呆れた顔をして、御前もよっぽど馬鹿だなあと云った。是公から馬鹿と云われたって怖くも何ともないから黙っていた。すると是公が笑いながら、どうだ今度いっしょに連れてってやろうかと云い出した。是公の連れて行ってやろうかは久しいもので、二十四五年前、神田の小川亭の前にあった怪しげな天麩羅屋へ連れて行ってくれた以来時々連れてってやろうかを余に向って繰返す癖がある。そのくせいまだ大した所へ連れて行ってくれた試がない。「今度いっしょに連れてってやろうか」もおおかたその格だろうと思ってただうんと答えておいた。この気のない返事を聞いた総裁は、まあ海外における日本人がどんな事をしているか、ちっと見て来るがいい。御前みたように何にも知らないで高慢な顔をしていられては傍が迷惑するからとすこぶる適切めいた事を云う。何でも是公に聞いて見ると馬関や何かで我々の不必要と認めるほどの御茶代などを宿屋へ置くんだそうだから、是公といっしょに歩いて、この尨大な御茶代が宿屋の主人下女下男にどんな影響を生ずるかちょっと見たくなった。そこで、じゃ君の供をしてへいへい云って歩いて見たいなと注文をつけたら、そりゃどうでも構わない、いっしょが厭なら別でも差支えないと云う返事であった。