地球を狙う者
本文約14,400字 ・ 読了時間 約29分
あらすじ(AIが作成しました)
地震観測所の赴任先へ向かう理学士大隅圭造は、船上で有名な火星研究者の轟博士とその助手サチ子に出会う。博士一行も同じ島へ向かう中、大隅は火星の生物が人間を模して侵略を企てている可能性を知る。博士が人間ではなく火星の生物と入れ替わっていたという戦慄の事実を突き止めた大隅は、サチ子と共に、地球に接近する火星からの脅威に対抗し続けることを決意する。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
「火星に近づく」と報ぜられるとき、南洋の一孤島で惨殺された火星研究の老博士、その手になるメモには果して何が秘められていたか? これは世界最大の恐るべき戦慄だ!
父島を南に
「おいボーイ君。この汽船は、ガソリンの切符をなくしでもしたのかね」
「え、ガソリンの切符ですって?」
ボーイは、酒壜をのせたアルミの盆をさげたまま、舷側にだらりともたれかかっている僕の顔を呆れたような目でみて、
「これはどうもおそれいりました。いくらなんでも、この汽船は円タクなどとはちがいまして、ガソリンなんぞ使いやいたしませんので……」
それを待っていましたとばかり、僕はいってやった。
「だって君、この汽船はけさ九時に出港するんだという話だったが、ほら、もう十一時になるというのにいっこう出る気配がないじゃないか。だからもしやガソリン切符が……」
「おっとおっと、後はおっしゃいますな」とボーイはあいている片手の方で僕の口をふさぐような恰好をして、「いや、ごもっともでございますよ。出港が急に遅れましたのはちょっと訳がございましてな」
「どんな訳だい。僕は何も聞いていないぞ」
と、僕はどなりつけるようにいった。
「いやどうも。それは相済まぬことで。その訳といいますのが――」といったところでボーイは、急に言葉をとめ舷側越しに桟橋を指さし、「ああ、その訳なるものが、ただいまあれに現われました。ほら、いまブリッジをこちらにのぼってまいります」
と、ボーイは、なにやらにやにやといやらしい笑い顔をつくった。
「なに、ブリッジを――」と、僕は身体をくねらせて、ブリッジの方を見た。そして口の中で、おおと叫んだ。
父娘でもあろうか――と、始めはそうおもった。もう六十ぢかい太った老紳士の腕を、その横からピンク色の洋装のうつくしく身についた若い女が支えて、ブリッジをのぼってくる。
その老紳士は、どこかで見たおぼえのある顔だった。しかし、僕は、それを思いだすかわりに注意力を、その脇にいる若い女性の方にうばわれていた。
(すばらしい女だ)