TRENDIA CLASSIC

キキリツツリ

夢野久作

1 / 4

露子さんは継子で、いつもお母さんからいじめられて泣いてばかりいました。

夜は毎晩おそくまで御飯のあと片付けをしたり、お使いに遣られたりしました。寝る時はまた、お台所の際の板張りの上に薄い薄い蒲団を敷いて、たった一人ふるえながら寝なければなりませんでした。

ようやく寒いつめたい冬が過ぎてあたたかくなりましたので、露子さんは大喜びでした。けれどもそれと一所に悲しくてならぬ事が出来ました。

露子さんは尋常の四年生でしたが、六年生にも負けぬ位学校がよく出来ましたので、今年から女学校に這入りたいと思って、或る日思い切ってお父さまやお母様に願って見たのですが、お父様は宜しいとおっしゃっても、お母様がお聞きになりません。

「女の癖に女学校へ行くなんて余計な事です。女学校へ這入るには試験を受けねばならぬでしょう。試験を受けるために勉強するからといって、うちの仕事をなまけようと思うから、そんな事を云うのです。試験の前に勉強して女学校に這入れたって、本当に這入れたのではありませぬ。勉強しないで這入れたのが本当です。まだ尋常四年の癖に生意気な事を云うものではありませぬ」

こう云って、お母さんは何といっても御承知なさいませんでした。

露子さんも勉強しないではとても女学校へ這入れまいと思って、泣く泣くだまってしまいました。そうして静かに台所の電気を消して寝ました。

けれども露子さんは、女学校に這入りたくて這入りたくてたまりませんでした。床に就いてから涙が止め度なく出て寝られませんでした。

その中に近所が静かになると、露子さんは不図妙な音に気がつきました。

雨戸の真中あたりと思う処から、

「キキリココリ。ククリキキリ。フフリチチリ。リリリツツリ」

と小さな音が面白く調子よく聞こえて来ます。

露子さんはそっと起き上って、そっと電気をひねって、音のする方に近寄りました。

見ると、その雨戸の桟の上に小さい小さい虫が一匹、洋服を着て眼鏡を掛けて、揺れ椅子に腰をかけて書物を読んでいます。今の音は虫が揺れ椅子をゆする音でした。

夢野久作の他の作品