クチマネ
本文約3,400字 ・ 読了時間 約7分
あらすじ(AIが作成しました)
人の口真似をしては嫌われる美代子という少女が、反物を担いだ支那人に不思議な金襴の巾着へ吸い込まれ、姿を消す。妹を誘拐されたと直感した兄の春夫は、犯人のあとを追い、辿り着いた隠れ家で少女たちが次々と巾着から出入りさせられ、服を奪われる異様な光景を目撃する。兄は隙を見て巾着を奪い警察へ駆け込むが、袋の中身はただの南京玉だと主張する支那人と、証言を疑う警部との間で窮地に立たされる。
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美代子さんは綺麗な可愛らしい児でしたが、ひとの口真似をするので皆から嫌われていました。
或る日の事、美代子さんはお家の前でたった一人で羽子をついていますと、一人の支那人が反物を担いで遣って来て、美代子さんのお家の門口で、
「奥さん、旦那さん、反物入りまションか」
と言いました。美代子さんはカチリカチリと羽子をつきながら、
「入りまショんよ」
と云いました。
支那人はニヤニヤ笑って美代子さんを見ておりましたが又、
「けんとんけんちゅう(支那の織物の名)入りまションか」
と云いました。
「てんどんけんちん入りまションよ」
と美代子さんは矢張り羽子をつきながら、又口真似をしました。
支那人はこの時大変こわい顔をしましたが、何も知らずに羽子をついている美代子さんのすぐうしろに来て、小さな金襴の巾着をポケットから出してその口を拡げながら、
「オーチンパイパイ」
と云いました。美代子さんは矢張り何気なく羽子をつきながら口真似をしました。
「オーチンパイパイ」
「ハッ」
と支那人が大きなかけ声をしますと、美代子さんは羽子と羽子板ごと影も形も見えなくなってしまいました。
支那人は又ニヤリと笑ってあたりを見まわしましたが、そのまま巾着の口を閉じて懐中へしまって、反物を担いで今度は隣家の門口へ行って知らぬ顔で、
「けんとんけんちゅう入りまションか」
と呼びました。
美代子さんのおうちの玄関で勉強をしていたお兄さんの春夫さんは、支那人が妙なかけ声をすると一時に羽子板の音が聞こえなくなりましたので、変に思って障子を開けて見ますとコハ如何に、たった今までいた美代子さんが影も形も見えません。いよいよ変に思って表へ駆け出して見ると、お天気の良い往来に人通りも無く、二三軒先で支那人が、
「反物入りまションか」
と云っているだけです。
春夫さんはあの支那人が誘拐したに違いないと思いました。