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TORENDIA

趣味の遺伝

本文約38,200字 ・ 読了時間 約77分

あらすじ(AIが作成しました)

戦地から凱旋する軍人を歓迎する喧騒の新橋駅で、主人公は万歳を唱えられず困惑する。ある日、寂光院を訪れた主人公は、そこで古びた伽藍と調和する美しい女性を目撃する。後にその女性が、戦死した青年・浩さんの日記をきっかけに、浩さんの母と親交を深めていたことを知る。主人公は、国中の歓喜の中で忘れ去られた浩さんを想い続け、互いに慈しみ合う母と女性の姿に、真実の涙を流す様子を描く。

夏目漱石

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一

陽気のせいで神も気違になる。「人を屠りて餓えたる犬を救え」と雲の裡より叫ぶ声が、逆しまに日本海を撼かして満洲の果まで響き渡った時、日人と露人ははっと応えて百里に余る一大屠場を朔北の野に開いた。すると渺々たる平原の尽くる下より、眼にあまる狗の群が、腥き風を横に截り縦に裂いて、四つ足の銃丸を一度に打ち出したように飛んで来た。狂える神が小躍りして「血を啜れ」と云うを合図に、ぺらぺらと吐くの舌は暗き大地を照らして咽喉を越す血潮の湧き返る音が聞えた。今度は黒雲の端を踏み鳴らして「肉を食え」と神が号ぶと「肉を食え! 肉を食え!」と犬共も一度に咆え立てる。やがてめりめりと腕を食い切る、深い口をあけて耳の根まで胴にかぶりつく。一つの脛を啣えて左右から引き合う。ようやくの事肉は大半平げたと思うと、また羃々たる雲を貫ぬいて恐しい神の声がした。「肉の後には骨をしゃぶれ」と云う。すわこそ骨だ。犬の歯は肉よりも骨を噛むに適している。狂う神の作った犬には狂った道具が具わっている。今日の振舞を予期して工夫してくれた歯じゃ。鳴らせ鳴らせと牙を鳴らして骨にかかる。ある者は摧いて髄を吸い、ある者は砕いて地に塗る。歯の立たぬ者は横にこいて牙を磨ぐ。

怖い事だと例の通り空想に耽りながらいつしか新橋へ来た。見ると停車場前の広場はいっぱいの人で凱旋門を通して二間ばかりの路を開いたまま、左右には割り込む事も出来ないほど行列している。何だろう?

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