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TORENDIA

竜村平蔵氏の芸術

本文約1,300字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

一本数千円もする高価な女帯を織り上げる龍村平蔵の芸術を論じる。現代の世相において贅沢品との批判を受けかねないその製作活動を、工芸品を超えた芸術品としての完成度の高さから高く評価する。蒔絵や陶器など多岐にわたる芸術品の特色を織物という手法で巧みに捉え、かつ織物本来の調和を追求したその作品群を、足利時代の能衣裳にも比肩する業績として称賛し、同時代の芸術家たちが注目すべき天才の仕事であることを世に伝える。

芥川龍之介

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現代はせち辛い世の中である。このせち辛い世の中に、龍村平蔵さんの如く一本二千円も三千円もする女帯を織つてゐると云ふ事は或は時代の大勢に風馬牛だと云ふ非難を得るかも知れない。いや、中には斯る贅沢品の為に、生産能力の費される事を憤慨する向きもありさうである。

が、その女帯が単なる女帯に止まらなかつたら――工芸品よりも寧ろ芸術品として鑑賞せらるべき性質のものだつたら、如何に現代が明日の日にも、米の飯さへ食へなくなりさうな、せち辛い世の中であるにもせよ、一概に贅沢品退治の鼓を鳴らして、龍村さんの事業と作品とを責める訳には行くまいと思ふ。この意味に於て私は、悪辣無双に切迫した時勢の手前も遠慮なく、堂々と龍村さんの女帯を天下に推称出来る事を、この上もなく喜ばしく思はない訳には行かないのである。

と云つて勿論私は、特に織物の鑑賞に長じてゐる次第でも何でもない。ましてその方面の歴史的或は科学的知識に至つては、猶更不案内な人間である。だから龍村さんの女帯が、滔々たる当世の西陣織と比較して、――と云ふよりは呉織綾織から川島甚兵衛に至るまで、上下二千年の織工史を通じて、如何なる地歩を占むべきものか、その辺の消息に至つては、毫もわからぬと云ふ外はない。従つて私の推称が其影の薄いものになる事は、龍村さんの為にも、私自身の為にも遺憾千万な次第であるが、同時に又それだからこそ、私は御同業の芸術家諸君を妄に貶しめる無礼もなく、安んじて龍村さんの女帯を天下に推称する事が出来るのである。これは御同業の芸術家諸君の為にも、惹いては私自身の為にも、御同慶の至りと云はざるを得ない。

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