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TORENDIA

カルメン

本文約1,900字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

東京の帝劇へやって来たロシアのグランド・オペラで、カルメン役を演じるはずの女優イイナ・ブルスカアヤをめぐる出来事を綴る。語り手は、熱望していた主役の不在を知り、その理由が彼女を追ってきた旧帝国の侯爵に関わる悲劇であることを舞台監督の友人から聞かされる。公演中、観客席に現れた当の女優の姿に目を奪われつつ、公演後の彼女の奇妙な振る舞いに思いを馳せ、舞台上の物語と現実が交錯するような情景を描き出す。

芥川龍之介

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🎧 カルメン / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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革命前だったか、革命後だったか、――いや、あれは革命前ではない。なぜまた革命前ではないかと言えば、僕は当時小耳に挟んだダンチェンコの洒落を覚えているからである。

ある蒸し暑い雨もよいの夜、舞台監督のT君は、帝劇の露台に佇みながら、炭酸水のコップを片手に詩人のダンチェンコと話していた。あの亜麻色の髪の毛をした盲目詩人のダンチェンコとである。

「これもやっぱり時勢ですね。はるばる露西亜のグランド・オペラが日本の東京へやって来ると言うのは。」

「それはボルシェヴィッキはカゲキ派ですから。」

この問答のあったのは確か初日から五日目の晩、――カルメンが舞台へ登った晩である。僕はカルメンに扮するはずのイイナ・ブルスカアヤに夢中になっていた。イイナは目の大きい、小鼻の張った、肉感の強い女である。僕は勿論カルメンに扮するイイナを観ることを楽しみにしていた、が、第一幕が上ったのを見ると、カルメンに扮したのはイイナではない。水色の目をした、鼻の高い、何とか云う貧相な女優である。僕はT君と同じボックスにタキシイドの胸を並べながら、落胆しない訣には行かなかった。

「カルメンは僕等のイイナじゃないね。」

「イイナは今夜は休みだそうだ。その原因がまた頗るロマンティックでね。――」

「どうしたんだ?」

「何とか云う旧帝国の侯爵が一人、イイナのあとを追っかけて来てね、おととい東京へ着いたんだそうだ。ところがイイナはいつのまにか亜米利加人の商人の世話になっている。そいつを見た侯爵は絶望したんだね、ゆうべホテルの自分の部屋で首を縊って死んじまったんだそうだ。」

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