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TORENDIA

夜明け前

本文約218,700字 ・ 読了時間 約438分

あらすじ(AIが作成しました)

馬籠の旧家に住む青山半蔵は、廃藩置県による混乱の中で村の生活を救うべく嘆願書を起草する。地租改正や学事への奔走により家を留守にしがちであったが、家族の絆を大切にし、伝統的な生活と革新的な時代の波との間で苦悩する。木曾谷の住民の生計を脅かす山林事件に直面した彼は、封建的な旧習が消え去る社会の過渡期において、維新の理想と現実の狭間で自己の信念を貫こうとする姿を描く。

島崎藤村

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第八章

一

母刀自の枕屏風に

いやしきもたかきもなべて夢の世をうら安くこそ過ぐべかりけれ

花紅葉あはれと見つつはるあきを心のどけくたちかさねませ

おやのよもわがよも老をさそへども待たるるものは春にぞありける

新しく造った小屏風がある。娘お粂がいる。長男の宗太がいる。継母おまんは屏風の出来をほめながら、半蔵の書いたものにながめ入っている。そこいらには、いたずらざかりな三男の森夫までが物めずらしそうにのぞきに来ている。

そこは馬籠の半蔵の家だ。ただの住宅としてはもはや彼の家も広過ぎて、いたずらに修繕にのみ手がかかるところから、旧い屋敷の一部は妻籠本陣同様取り崩して桑畠にしたが、その際にも亡き父吉左衛門の隠居所だけはそっくり残して置いてある。おまんはその裏二階から桑畠のわきの細道を歩いて、食事のたびごとに母屋の方へと通って来ている。その年、明治六年の春はおまんもすでに六十五歳の老婦人であるが、吉左衛門を見送ってからは髪も切って、さびしい日を隠居所に送っているので、この継母を慰めるために半蔵は自作の歌を紙に書きつけ、それを自意匠の屏風に造らせたのであった。高さ二尺あまりほどのものである。杉柾の緑と白い紙の色との調和も、簡素を愛する彼の好みをあらわしていた。これを裏二階のすみにでも置いて戸障子のすきまから来る風のふせぎとしてもよし、風邪にでも冒された日の枕もとに置いて訪う人もない時の友としてもよし、こんな彼の言葉も継母をよろこばせるのであった。

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