TRENDIA CLASSIC

口笛を吹く武士

林不忘

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無双連子

「ちょっと密談――こっちへ寄ってくれ。」

上野介護衛のために、この吉良の邸へ派遣されて来ている縁辺上杉家の付家老、小林平八郎だ。

呼びにやった同じく上杉家付人、目付役、清水一角が、ぬっとはいってくるのを見上げて、書きものをしていた経机を、膝から抜くようにして、わきへ置いた。

「相当冷えるのう、きょうは。」

「は。何といっても、師走ですからな、もう。」

小林が、手をかざしていた火桶を押しやると、一角は、それを奪うように、抱きこんですわった。

「用というのは、どういう――。」

上杉家から多勢来ている付け人のなかで、この二人は、よく気が合っていた。身分の高下を無視して、こんな、ともだちみたいな口をきいた。

朱引きそとの、本所松阪町にある吉良邸の一室だった。

小林は、しばらく黙っていたが、

「念には、念を――。」

と、いうと、起ち上って、縁の障子や、隣室のさかいの襖を、左右ともからりと開けはなして、うふふと苦笑しながら座にかえった。

庭から、さらっとしたうす陽が、さし込んだ。

一角が、

「だいぶ物ものしいですな。」

重要なことをいう時の、この人の癖で、小林は、にこにこして、

「この、裏門のまえに、雑貨商があるな。御存じかな?」と、覗くように一角の顔を見て、はじめていた。「米屋五兵衛とかいう――あれは、前原といって、赤穂の浪士だと密告して来たものがあるが。」

一角は、笑った。

「またですか。私はまた、この本所の万屋で小豆屋善兵衛というやつ、それがじつは、赤浪の化けたのだと聞かされたことがあります。たしか、かんざし四五郎とか、五五郎とか――しかし、埓もない。そうどこにも、ここにも、赤浪が潜んでおってたまるものですか。そんなことをいえば、出入りの商人や御用聞きも、片っ端から赤浪だろうし、第一、そういうあなたこそ、赤穂浪士の錚々たるものかも知れませんな、あっはっはっは、いや、風声鶴唳、風声鶴唳――。」

小林は、手文庫から、元赤穂藩の名鑑を取り出して、畳のうえにひろげて見ていたが、つと一個処を指さして、

「ほら、ここにある。前原伊助宗房、中小姓、兼金奉行、十石三人扶持――。」

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