口笛を吹く武士
本文約10,300字 ・ 読了時間 約21分
あらすじ(AIが作成しました)
吉良邸に派遣された上杉家付人の清水一角は、赤穂浪士の動向を警戒する小林平八郎と密談を重ねる。一角の兄である清水狂太郎は、放蕩無頼な生活を送る変り者だが、独自の行動で神奈川の宿へ向かい、そこで大石内蔵助の一行と遭遇する。その後、狂太郎は吉良邸の弟の部屋で酔いどれる日々を送るが、周囲で頻発する不審死の現場では口笛の音が響く。討ち入りの夜、狂太郎の動静は不明ながら、浪士たちは行列の途中でその口笛の音を耳にする。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
無双連子
一
「ちょっと密談――こっちへ寄ってくれ。」
上野介護衛のために、この吉良の邸へ派遣されて来ている縁辺上杉家の付家老、小林平八郎だ。
呼びにやった同じく上杉家付人、目付役、清水一角が、ぬっとはいってくるのを見上げて、書きものをしていた経机を、膝から抜くようにして、わきへ置いた。
「相当冷えるのう、きょうは。」
「は。何といっても、師走ですからな、もう。」
小林が、手をかざしていた火桶を押しやると、一角は、それを奪うように、抱きこんですわった。
「用というのは、どういう――。」
上杉家から多勢来ている付け人のなかで、この二人は、よく気が合っていた。身分の高下を無視して、こんな、ともだちみたいな口をきいた。
朱引きそとの、本所松阪町にある吉良邸の一室だった。
小林は、しばらく黙っていたが、
「念には、念を――。」
と、いうと、起ち上って、縁の障子や、隣室のさかいの襖を、左右ともからりと開けはなして、うふふと苦笑しながら座にかえった。
庭から、さらっとしたうす陽が、さし込んだ。
一角が、
「だいぶ物ものしいですな。」
重要なことをいう時の、この人の癖で、小林は、にこにこして、
「この、裏門のまえに、雑貨商があるな。御存じかな?」と、覗くように一角の顔を見て、はじめていた。「米屋五兵衛とかいう――あれは、前原といって、赤穂の浪士だと密告して来たものがあるが。」
一角は、笑った。
「またですか。私はまた、この本所の万屋で小豆屋善兵衛というやつ、それがじつは、赤浪の化けたのだと聞かされたことがあります。たしか、かんざし四五郎とか、五五郎とか――しかし、埓もない。そうどこにも、ここにも、赤浪が潜んでおってたまるものですか。そんなことをいえば、出入りの商人や御用聞きも、片っ端から赤浪だろうし、第一、そういうあなたこそ、赤穂浪士の錚々たるものかも知れませんな、あっはっはっは、いや、風声鶴唳、風声鶴唳――。」
小林は、手文庫から、元赤穂藩の名鑑を取り出して、畳のうえにひろげて見ていたが、つと一個処を指さして、
「ほら、ここにある。前原伊助宗房、中小姓、兼金奉行、十石三人扶持――。」
二