TRENDIA CLASSIC

釘抜藤吉捕物覚書

林不忘

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紫に明ける大江戸の夏。

七月十四日のことだった。神田明神は祇園三社、その牛頭天王祭のお神輿が、今日は南伝馬町の旅所から還御になろうという日の朝まだき、秋元但馬守の下屋敷で徹宵酒肴の馳走に預かった合点長屋の釘抜藤吉は、乾児の勘弁勘次を供につれて本多肥後殿の武者塀に沿い、これから八丁堀まではほんの一股ぎと今しも箱崎橋の袂へさしかかったところ。

「のう、勘、かれこれ半かの。」

「あいさ、そんなもんでがしょう。」

御門を出たのは暗いうちだったが、霽れて間もない夜中の雨の名残りを受けて、新大橋の空からようやく東が白みかけたものの、起きている家はおろか未だ人っ子一人影を見せない。冷々とした朝風に思わず酔覚めの首を縮めて、紺結城の襟をかき合せながら藤吉は押黙って泥濘の道を拾った。

「大分降りやした――気違え雨――四つ半から八つ時まで――どっと落ちて――思い直したように止みやがった。へん、お蔭で泥路だ――勘弁ならねえ。」

勘弁勘次はこんなことを呟いて一生懸命水溜りを飛び越えた。藤吉は何か考えていた。

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