清貧の書
本文約17,900字 ・ 読了時間 約36分
あらすじ(AIが作成しました)
東京で生活を送る一人の女が、過酷な過去を背負いながら三人目の夫・小松与一と結ばれ、慎ましくも新たな生活を築く過程を描く。暴力的な前夫との記憶に苦しめられ、孤独や貧困に苛まれ続けた主人公は、与一からの愛情深い手紙と真摯な言葉に支えられ、次第に素直な心を取り戻していく。厳しい現実の中でも、小さな喜びを見出しながら、互いに自立した夫婦としての絆を深めていく姿を通じて、過酷な運命に抗い生き抜こうとする女性の心情を繊細に綴る。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
私はもう長い間、一人で住みたいと云う事を願って暮した。古里も、古里の家族達の事も忘れ果てて今なお私の戸籍の上は、真白いままで遠い肉親の記憶の中から薄れかけようとしている。
ただひとり母だけは、跌ずき勝ちな私に度々手紙をくれて叱って云う事は、――
おまえは、おかあさんでも、おとこうんがわるうて、くろうしていると、ふてくされてみえるが、よう、むねにてをあててかんがえてみい。しっかりものじゃ、ゆうて、おまえを、しんようしていても、そうそう、おとこさんのなまえがちごうては、わしもくるしいけに、さっち五円おくってくれとあったが、ばばさがしんで、そうれんもだされんのを、しってであろう。あんなひとじゃけに、おとうさんも、ほんのこて、しんぼうしなはって、このごろは、めしのうえに、しょおゆうかけた、べんとうだけもって、かいへいだんに、せきたんはこびにいっておんなはる、五円なおくれんけん、二円ばいれとく、しんぼうしなはい。てがみかくのも、いちんちがかりで、あたまがいとうなる。かえろうごとあったら、二人でもどんなさい。
はは。
ひなたくさい母の手紙を取り出しては、泪をじくじくこぼし、「誰がかえってやるもンか、田舎へ帰っても飯が満足に食えんのに……今に見い」私は母の手紙の中の、義父が醤油をかけた弁当を持って毎日海兵団へ働きに行っていると云う事が、一番胸にこたえた。――もう東京に来て四年にもなる。さして遠い過去ではない。