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TORENDIA

夜の若葉

本文約12,000字 ・ 読了時間 約24分

あらすじ(AIが作成しました)

音楽会で従兄の順助と再会した桃子は、彼が同行していた女性さよ子を紹介される。その後、二人は結婚への切実な思いを吐露し合うが、従兄妹という関係が障壁となることに苦悩する。時代が抱える過酷な運命に対し、男は妻という存在に母性的な安らぎを求め、女は日常的な安定を望むという男女間の感覚の乖離に桃子は直面する。二人は愛のあり方を問い続けながら、埋めがたい距離と精神的な繋がりの中で揺れ動く。

宮本百合子

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一

桃子の座席から二列ばかり先が、ちょうどその二階座席へ通じる入り口の階段になっていた。もう開演時間の迫っている今は、後から後から込んでいかにも音楽会らしい色彩の溢れたおとなしい活気の漲った混雑がそのあたりに渦巻いている。プログラムと書類入れの鞄とを膝の上に重ね、そこへ両腕をたがい違いにのせた寛いだ姿態で、桃子は目の下の賑やかな光景を、それもこれから聴こうとする音楽の添えものとしてたのしむ眼付で眺めていた。桃子のところからは正面に、入り口を囲んでめぐらされている手摺が見えた。下の大廊下から絶え間なく流れ込む人々は、一段一段のぼって来て、先ず頭から先にその手摺のところに現れ、ついで肩、帯、やがてすっかりの姿となって、時には互によけ合って却ってぶつかったりもしながら通路を夫々の座席に動いてゆく。いろんなきもの。いろんな帯。いろんな髪の形。夫々の趣向をひそめたそれらの色と動きとを巻きこんで、熱心に調子を合わせているバスの絃の響、笛の顫音、ヴァイオリンの入り乱れた音などが期待を誘う雰囲気をかもして、しめられている舞台のカーテンの彼方から場内いっぱい漂っている。

空いていた桃子の右隣りに譜をプログラムに持ち添えた青年が来た。桃子はスカートをまとめてすこし体を肱かけからずらし、自然な動作のつづきで柔かく顎をひきながら襟に插している渋い色の匂い菫をかいだ。勤めからまっすぐまわって来る桃子は、小さいけれども生きたその花を襟にさして、一つの夜を自分なりの心持よさに飾っているのであった。

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