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TORENDIA

難船小僧

本文約21,100字 ・ 読了時間 約43分

あらすじ(AIが作成しました)

昭和二年、上海。アラスカ丸に乗船した伊那一郎という少年は、乗った船を必ず沈没させると噂される「難船小僧」だった。船員たちが不安を募らせる中、無愛想で謎めいた船長は少年を保護し、石炭運びの仕事に就かせる。船内では少年を巡る不穏な空気が漂い、やがて少年を巡る凄惨な出来事が起こる。不吉な迷信と狂気に包まれた船が目的地を目指す中、船長は少年の存在を通じたある奇妙な実験の成否を確信し、冷酷に哄笑する。

夢野久作

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船長の横顔をジッと見ていると、だんだん人間らしい感じがなくなって来るんだ。骸骨を渋紙で貼り固めてワニスで塗上げたような黒いガッチリした凸額の下に、硝子球じみたギョロギョロする眼玉が二つコビリ付いている。マドロス煙管をギュウと引啣えた横一文字の口が、旧式軍艦の衝角みたいな巨大な顎と一所に、鋼鉄の噛締機そっくりの頑固な根性を露出している。それが船橋の欄干に両肱を凭たせて、青い青い秋空の下に横たわる陸地の方を凝視めているのだ。

そのギロリと固定した視線の一直線上に、巨大な百貨店らしい建物の赤い旗がフラフラ動いている。その周囲に上海の市街が展開している上をフウワリと白い雲が並んで行く。

……といったような無事平穏な朝だったがね。昭和二年頃の十月の末だったっけが……。

足音高く船橋に登って行った俺は、その船長の背後でワザと足音高く立停まった。

「おはよう……」

と声をかけたが渋紙面は見向きもしない。何しろ船長仲間でも指折の変人だからね。何か一心に考えていたらしい。

俺は右手に提げた黄色い、四角い紙包を船長の鼻の先にブラ下げてキリキリと回転さした。

「御註文の西蔵紅茶です。やッと探し出したんです」

船長はやっと吃驚したらしく首を縮めた。無言のまま六尺豊かの長身をニューとこっちへ向けて紅茶を受取った。

「ウウ……機関長か……アリガト……」

とプッスリ云った。コンナ時にニンガリともしないのがこの渋紙船長の特徴なんだ。取付きの悪い事なら日本一だろう。こんな男には何でも構わない。殴られたらなぐり返す覚悟でポンポン云ってしまった方が、早わかりするものだ。

「……昨夜、陸上で妙な話を聞いて来たんですがね。今度お雇いになったあの伊那一郎って小僧ですね。あの小僧は有名な難船小僧っていう曰く附きの代物だって、皆、云ってますぜ」

俺はそう云いさしてチョックラ船長の顔色を窺ってみたが、何の反応も無い。相も変らず茶色の謎語像みたいにプッスリしている。無愛相の標本だ。

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