喫煙癖
本文約2,000字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
札幌の郊外へ向かう馬車の上で、五十過ぎの男女が乗り合わせる。絶えず煙草を燻らす老人は、かつての札幌停車場の売店にいた少女への慕情を語り始める。煙草を吸うたびに、その煙の中に少女の面影を見出し続けてきたという。話を聞いた老婆は、指にはめた古びた真鍮の指輪を示し、自身がかつてその売店に座っていた娘であることを告げる。再会した二人は、長い年月を経てそれぞれの歩みを振り返り、月寒の街並みへと入っていく。
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札幌の場末の街、豊平を出た無蓋二輪の馬車が、北を指して走っている砂利道を、月寒の部落に向けてがたごとと動いて行った。
馬車の上には二人の乗客が対い合って乗っていた。二人とも、いずれも身すぼらしい身装で、一人は五十近い婆さんであった。一人はやはり、同じ年ごろの爺さんであった。
爺さんは引っ切りなしに、煙草を燻らしていた。その煙がどうかすると、風の具合で、婆さんの顔にかかった。婆さんはそのたびに横を向いて、その煙を避けようとした。
「これはどうも、貴女の方へばかり、煙を吹きかけるようで……」
爺さんは軽く頭をさげながら言った。しかし、爺さんは、やはりそのまま煙草を吸い続けるのだった。
「煙がかかってようござんすよ。かまいませんよ。煙草の好きな方は仕方がございませんもの。」
婆さんは微笑をもって言うのだった。
「私はどうも、眼を開いている間は、煙草をどうしてもはなせませんのでなあ。」
爺さんはそう言って、今度は紺碧の大空に向けて煙を吐きあげた。
「煙草の好きな方は、夜中に眼を覚ましても、床の中で一服するそうですからね。」
「私のは、それはそれは、それどころじゃないんです。とにかく、夜中だろうが、昼間だろうが、眼を開いている間はこうして煙草を口にしている始末なんで。何しろ、私あ、十五六の時から燻かして来たんですから。」
「ではもう、三四十年も呑み続けていらっしゃるわけですね。」
「それさね、早三十五六年にもなりますかなあ?」
爺さんはそう言って、遠い記憶を思い出そうとするように、軽く眼を閉じた。
「何方までおいでになりますかよ?」
婆さんは、話し相手の出来たのをよろこんでいるように、突然そんなことを訊いた。
「私かね? 私あ、月寒までです。前から知っている牧場で、汽罐を一つ据え付けたもんですて、そこのまあ火夫というようなわけで……」
「これから寒くなりますから、それは、結構な仕事でございますよ。」
「あまりどっとしないんですがね、何しろこれ。私あ、こうして無暗に煙草を燻かすもんですから、煙草銭だけでも自分で働かないと……」
「汽罐の方は手慣れておいでなのですかよ?」