鎖骨
本文約2,900字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
子供が階段から転落し頭部と鎖骨を負傷した出来事を契機に、頭部外傷の潜伏的な危険性と鎖骨が果たす安全弁としての役割を論じる。人体や生物の持つ自然な治癒能力や防衛機能を「造化の妙機」と称し、その精巧さを高く評価する。医療は自然な治癒過程の助手に過ぎないと位置づけ、精神的な打撃に対しても肉体と同様の防衛機能が存在することを示唆し、将来的な精神医療の進歩への期待と人間心理の神秘を綴る。
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子供が階段から落ちてけがをした。右の眉骨を打ったと見えて眼瞼がまんじゅうのようにふくれ上がった。それだけかと思っていたが吐きけのあるのが気になった。医者が来て見ると、どうも右肩の鎖骨が折れているらしいというので驚いて整形外科のT博士に診てもらうとやはり鎖骨がみごとに折れている。しかしそのほうはたいした事ではない。それよりも右耳の後上部の頭蓋骨をひどく打ったらしい形跡があって、そのほうがはなはだ大事だというので、はじめはたいした事でもないと思った事がらがだんだんに重大になって来た。T氏の話によると、頭を打ってから数時間の間当人はいっこう平気で、いつものように仕事をしていて、そうして突然意識を失って倒れることがよくあるそうである。
それは脳に徐々の出血があって、それがだんだんに蓄積して内圧を増す、それにつれて脈搏がはじめはだんだん昂進して百二十ほどに上がるが、それでも当人には自覚症状はない。それから脈搏がだんだん減少して行き、それが六十ぐらいに達したころに急に卒倒して人事不省に陥るそうである。それだから、頭を打ったと思ったらたとえ気分に変わりがないと思っても、絶対安静にして、そうして脈搏を数えなければならないそうである。そうして危険になったら脊柱に針を刺して水を取ったりいろいろのことをしなければならないそうである。