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TORENDIA

明治三十二年頃

本文約2,400字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

明治三十二年に上京した著者が、夏目漱石の紹介で正岡子規を訪問し、雑誌『ホトトギス』に親しんだ日々を綴る。表紙の図案や挿絵に溢れる新鮮な活気、読者投稿による日記や短文、編集に集う仲間たちとの批評のやり取りなどを回想する。創成期の熱気に満ちた当時を「俳句の黄金時代」と位置づけ、その後の俳壇の変化を俯瞰しつつ、若き日の記憶と文学活動の原点となった交流を懐旧的な筆致で記録する回想録である。

寺田寅彦

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🎧 明治三十二年頃 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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明治三十二年に東京へ出て来たときに夏目先生の紹介ではじめて正岡子規の家へ遊びに行った。それとほとんど同時に『ホトトギス』という雑誌の予約購読者になったのであったが、あの頃の『ホトトギス』はあの頃の自分にとっては実にこの上もなく面白い雑誌であった。先ず第一に表紙の図案が綺麗で目新しく、俳味があってしかも古臭くないものであった。不折、黙語、外面諸画伯の挿画や裏絵がまたそれぞれに顕著な個性のある新鮮な活気のあるものであった。現在のようなジャーナリズム全盛時代ではおそらく大多数のこうした種類の挿画や裏絵は執筆画家の日常の職業意識の下に制作されたものであろうと思うが、あの頃の『ホトトギス』の上記の画家のものはいかにも自分で楽しみながら描いたものだろうという気のするものばかりである。どうしてそんな気がするか分らない。一つにはこれらの画家が子規と特別な親交があって、そうしてこの病友を慰めてやりたいという友情が籠っていたであろうし、また一つには当時他に類のなかったオリジナルでフレッシな雑誌の体裁を創成するということに対する純粋な芸術的な興味も多分に加わっていたために、おのずから実際に新鮮な活気が溢れていたのではないかとも思われる。こうした活気はすべてのものの勃興時代にのみ見らるるものであって、一度隆盛期を通り越すと消えてしまう。これはどうにも仕様のないものである。

たしか浅井和田両画伯の合作であったかと思うがフランスのグレーの田舎へ絵をかきに行った日記のようなものなども実に清新な薫りの高い読物であった。その内容はすっかり忘れてしまったが、それを読んだときに身に沁みた平和で美しいフランスの田舎の雰囲気だけが今でもそっくり心に残っているようである。

「闇汁会」や「柚味噌会」の奇抜な記事などもなかなか面白いものであった。これなども具体的内容は覚えていないが、この記事で窺われた当時の根岸子規庵の気分と云ったようなものだけははっきり思い出すことが出来る。

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