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TORENDIA

函館の大火について

本文約10,000字 ・ 読了時間 約20分

あらすじ(AIが作成しました)

昭和九年三月、函館で発生した大火は、低気圧による烈風が偶然にも大火の成立条件を満たしたことで被害を拡大させた。人々の過失や自然科学的な必然性を論じる中で、科学的な知識の普及と火災に関する基礎研究の重要性を説く。防災には科学の精髄を結集させた研究と国民の覚醒が不可欠であり、再び同様の惨禍を繰り返さないための備えを促すものである。

寺田寅彦

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昭和九年三月二十一日の夕から翌朝へかけて函館市に大火があって二万数千戸を焼き払い二千人に近い死者を生じた。実に珍しい大火である。そうしてこれが昭和九年の大日本の都市に起こったということが実にいっそう珍しいことなのである。

徳川時代の江戸には大火が名物であった。振袖火事として知られた明暦の大火は言うまでもなく、明和九年二月二十九日の午ごろ目黒行人坂大円寺から起こった火事はおりからの南西風に乗じて芝桜田から今の丸の内を焼いて神田下谷浅草と焼けつづけ、とうとう千住までも焼け抜けて、なおその火の支流は本郷から巣鴨にも延長し、また一方の逆流は今の日本橋区の目抜きの場所を曠野にした。これは焼失区域のだいたいの長さから言って今度の函館のそれの三倍以上であった。これは西暦一七七二年の出来事で今から百六十二年の昔の話である。当時江戸の消防機関は長い間の苦い経験で教育され訓練されてかなりに発達してはいたであろうが、ともかくも日本にまだ科学と名のつくもののなかった昔の災害であったのである。

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