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TORENDIA

猫の穴掘り

本文約3,900字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

猫が前脚で穴を掘っては用を足そうとする行動を例に、転居を繰り返す人間心理や社会の病理を考察する。科学技術の進歩による交通機関の発達は、本来接触のない異質なものを急激に結びつけ、社会に摩擦や騒動を生むと論じる。著者は現代の教育の不備や新しいものへの無批判な傾倒を指摘し、日常生活の断片を通じて、物事の本質的な原因を見極めることの重要性や、中年・老年教育の必要性を綴る随筆である。

寺田寅彦

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🎧 猫の穴掘り / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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猫が庭へ出て用を便じようとしてまず前脚で土を引っかき小さな穴を掘起こして、そこへしゃがんで体の後端部をあてがう。しかしうまく用を便ぜられないと、また少し進んで別のところへ第二の穴を掘って更に第二の試みをする。それでもいけないと更に第三、第四と、結局目的を達するまでこの試みをつづけるのである。工合の悪いのが自分の体のせいでなくて地面の不適当なせいだと思うらしい。

どこへ住居を定めあるいは就職しても何となく面白く行かないで、次から次へと転宅あるいは転職する人のうちにはこの猫のようなのもあるいはあるかもしれない。

永らく坐りつづけていたあとで足がしびれて歩けなくなる。その時、しびれた足の爪先をいくら揉んでもたたいてもなかなか直らない。また、夜中に眼が覚めてみると、片腕から手さきがしびれて泣きたいような歯がゆいような心持がすることがある。これもその、しびれた手さきや手首を揉んでも掻いてもなかなか直らない。これらの場合にはそのしびれた脚や腕の根元に近いところに着物のひだで圧迫された痕跡が赤く印銘されているのでそこを引っかき摩擦すればしびれはすぐに消散するのである。病気にもこんな風に自覚症状の所在とその原因の所在とがちがうのがあるらしい。

人間の心の病や、社会や国家の病にもこんなのがある。異常を「感じる」ところをいくら療治してもその異常は直らない。それを「感じさせる根原」の所在を突き止めなければ病は直せないのである。しかしこの病原を突きとめて適当な治療を加えることの出来るような教育者や為政者は古来稀である。

喧嘩ばかりしていて、とうとうおしまいに別れてしまう夫婦がある。聞いてみると到底性格が一致せぬからだという。しかしよくよく詮議してみるとやはり貧乏が総ての究極の原因であったという場合もかなり多いようである。紳士と紳士が主義の相違で仲違いをしたというのが、その背後に物質の問題のかくれていることもある。

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