モルモット
本文約7,100字 ・ 読了時間 約15分
あらすじ(AIが作成しました)
永い失業と生活苦で荒んだ心を持つ夫婦が、妻のヒステリーを和らげようとモルモットを飼い始める。工場地帯の過酷な環境で、二人は飢えを忍びながらも、次第に懐いてくる小さな動物に愛情を注ぎ、我が子のように慈しむ。再就職と転居を経て郊外へ移り住み、生活に安らぎを取り戻す中、モルモットの妊娠を機に、自身の運命を受け入れつつも奪われた母性を噛みしめる妻の複雑な心情と、夫婦の絆が描かれる。
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一
永いあいだの失業から生活難に追われて焦燥し、妻のヒステリーはひどくこうじて来た。彼女はちょっとした事にでも腹を立てて怒る、泣く、そしてしまいのはてには物をぶち投げて破壊するのであった。そうかと思うとまた、ありもしない自分の着物をびりびりっと引き裂いて了う。
彼はそんな風に荒んだ妻の心に、幾分のやわらか味を与えるであろうと思って、モルモットの仔を一つがい買って来た。牝の方は真っ白で眼が赤く、兎の仔のようである。そして牡の方は白と黒と茶褐色の三毛で眼が黒かった。
「おい、いいものを買って来たよ。」
「まあ! 可愛い動物だわねえ。それ、何を食べるの?」
「草を、一番よろこんで食べるって話しだ。」
「眼が、まるでルビーみたいねえ、何て綺麗に光るんだろう……早く草を取って来ておやりなさいよ。」
モルモット屋の小舎の中に、数千頭かためて飼われて、多くの友達をもっていた動物は、二頭だけ急にそこから引っこぬいて別な世界へつれて来られたので、辺りに怯えたもののように小さくなって打ち顫えていた。しかし小さなものにも似合わず体がよく整って居て、実に愛くるしかった。
「これ、お麦たべるかしらん?」
「うん、潰し麦を食べるそうだ。」
彼は妻の問いに答えた。すると彼女は可愛い動物に買って来てやるのだといって、乾物屋へ出かけて行ったので、彼もまた動物を部屋の中に放したままにして置いて草をさがしに戸外へ出た。
けれども、容易に草は見つからなかった。