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TORENDIA

シグナルとシグナレス

本文約11,200字 ・ 読了時間 約23分

あらすじ(AIが作成しました)

軽便鉄道のシグナレスと本線のシグナルは、線路脇に立ち列車を迎える毎日を送っている。対面するシグナレスに恋をしたシグナルは、なかなか届かないもどかしさを抱えつつ、周囲の電信柱や倉庫に見守られながら懸命に想いを伝えようとする。霧の夜、倉庫の導きによって二人は不思議な夢の共有を体験し、お互いの存在を確かめ合う。離れた場所に立つ二本の信号機が、日々の業務の中で心を寄せ合う交流を描く物語。

宮沢賢治

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「ガタンコガタンコ、シュウフッフッ、

さそりの赤眼が 見えたころ、

四時から今朝も やって来た。

遠野の盆地は まっくらで、

つめたい水の 声ばかり。

ガタンコガタンコ、シュウフッフッ、

凍えた砂利に 湯げを吐き、

火花を闇に まきながら、

蛇紋岩の 崖に来て、

やっと東が 燃えだした。

ガタンコガタンコ、シュウフッフッ、

鳥がなきだし 木は光り、

青々川は ながれたが、

丘もはざまも いちめんに、

まぶしい霜を 載せていた。

ガタンコガタンコ、シュウフッフッ、

やっぱりかけると あったかだ、

僕はほうほう 汗が出る。

もう七、八里 はせたいな、

今日も一日 霜ぐもり。

ガタンガタン、ギー、シュウシュウ」

軽便鉄道の東からの一番列車が少しあわてたように、こう歌いながらやって来てとまりました。機関車の下からは、力のない湯げが逃げ出して行き、ほそ長いおかしな形の煙突からは青いけむりが、ほんの少うし立ちました。

そこで軽便鉄道づきの電信柱どもは、やっと安心したように、ぶんぶんとうなり、シグナルの柱はかたんと白い腕木を上げました。このまっすぐなシグナルの柱は、シグナレスでした。

シグナレスはほっと小さなため息をついて空を見上げました。空にはうすい雲が縞になっていっぱいに充ち、それはつめたい白光を凍った地面に降らせながら、しずかに東に流れていたのです。

シグナレスはじっとその雲の行く方をながめました。それからやさしい腕木を思い切りそっちの方へ延ばしながら、ほんのかすかに、ひとりごとを言いました。

「今朝は伯母さんたちもきっとこっちの方を見ていらっしゃるわ」

シグナレスはいつまでもいつまでも、そっちに気をとられておりました。

「カタン」

うしろの方のしずかな空で、いきなり音がしましたのでシグナレスは急いでそっちをふり向きました。ずうっと積まれた黒い枕木の向こうに、あの立派な本線のシグナル柱が、今はるかの南から、かがやく白けむりをあげてやって来る列車を迎えるために、その上の硬い腕を下げたところでした。

「お早う今朝は暖かですね」本線のシグナル柱は、キチンと兵隊のように立ちながら、いやにまじめくさってあいさつしました。

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