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TORENDIA

列のこころ

本文約5,100字 ・ 読了時間 約11分

あらすじ(AIが作成しました)

日常のあらゆるところで人々が列をなす光景が、当時の日本の新しい秩序を示すと論じる。蕎麦店や上野駅の混雑、また列をつくる心理や社会的状況を分析し、列というものが単なる整頓の形ではなく、国民生活の歴史や課題を映し出す複雑な動的本質をもつものと捉える。列に並ぶ一人ひとりの存在に目を向け、市民社会における列の問題と、それが象徴する時代の空気や生活の苦難、そして個々の人間性について考察を深める随筆。

宮本百合子

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🎧 列のこころ / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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このごろはどこへ行っても列がある。列に立ってバスにのって用達しに出かけて昼ごろになり、日比谷の公会堂のよこの更科を通りかかったら、青々と蔦をからめた目かくしをあふれてどっさり順番を待っている人々の列があった。この小さい蕎麦店の入口はバスの入口のようにたった一つではなくていかにも公園のなかの店らしくからりと三方あいているし、テーブルはいくつもあるから、列も単純な一列ではなく、うち見たところテーブルに向って今や盛に蕎麦を箸にすくい上げてはチューチューと喉へすべり込ましている人々の背中へつめかけて、ぎっしりと犇めきよせて順を待っている。一人が椅子から腰を浮かすや否や、背後に待機していた人が極めて敏捷に、そのあとへ坐る。立った人の脚の片方がまだ椅子のところからどききらないうち、もう新手のひとの片脚はその片脚のわきに来ている。その位のすばしこさである。大抵のひとが上着をぬいだ姿である。帽子なしで、何とも云えないくさくさしたような気の立ったような顔つきで、蕎麦のたれの匂いの漂った店の内外に溢れている。

力仕事をするひとたちは、この頃五度ぐらい食べないとやれないそうだ。仲仕がトラックにのる仕事だと大変よろこぶという実際の例がある。トラックに乗っている間はともかく腹が空かないから。

おなかが空いたときの顔は誰しも些か険相で、男のひとたちは女よりもその表情が率直だと思う。おなかが空いた落付かない顔は、ああやって密集して順番を待っている人々の表情のなかで、更に一層焦立たしいような、焦立たしさを持ってゆく当途のないために猶更焦立たしいというようなかげを帯びて眉のあたりや口元に漂っている。タバコを吸いながら待っているというようなものが殆どないことも目につくことである。素破と云えばすぐ辷り込めるよう重心を片足において目をくばって待機しているのである。

そうやって待っているのが男ばかりなのも一つの光景であると思う。屈強な男ばかりがつめかけるのである。

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