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TORENDIA

伯爵の釵

本文約19,100字 ・ 読了時間 約39分

あらすじ(AIが作成しました)

北陸の都で巡業する女優・村井紫玉は、旱魃に見舞われた土地で偶然見かけた稚児に惹きつけられ、水を探すその様子を目の当たりにする。その後、女弟子たちと訪れた名所の公園で、禁忌とされる深水の穴「竜の口」に近づき、水底に美しい住家を見た紫玉は、自ら池に身を投じる。そこで謎の坊主と白山へ帰る姫神に出会い、異界の力に触れることで、干天の慈雨を呼び起こす不思議な体験を描く。

泉鏡花

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一

このもの語の起った土地は、清きと、美しきと、二筋の大川、市の両端を流れ、真中央に城の天守なお高く聳え、森黒く、濠蒼く、国境の山岳は重畳として、湖を包み、海に沿い、橋と、坂と、辻の柳、甍の浪の町を抱いた、北陸の都である。

一年、激しい旱魃のあった真夏の事。

……と言うとたちまち、天に可恐しき入道雲湧き、地に水論の修羅の巷の流れたように聞えるけれど、決して、そんな、物騒な沙汰ではない。

かかる折から、地方巡業の新劇団、女優を主とした帝都の有名なる大一座が、この土地に七日間の興行して、全市の湧くがごとき人気を博した。

極暑の、旱というのに、たといいかなる人気にせよ、湧くの、煮えるのなどは、口にするも暑くるしい。が、――諺に、火事の折から土蔵の焼けるのを防ぐのに、大盥に満々と水を湛え、蝋燭に灯を点じたのをその中に立てて目塗をすると、壁を透して煙が裡へ漲っても、火気を呼ばないで安全だと言う。……火をもって火を制するのだそうである。

ここに女優たちの、近代的情熱の燃ゆるがごとき演劇は、あたかもこの轍だ、と称えて可い。雲は焚け、草は萎み、水は涸れ、人は喘ぐ時、一座の劇はさながら褥熱に対する氷のごとく、十万の市民に、一剤、清涼の気を齎らして剰余あった。

膚の白さも雪なれば、瞳も露の涼しい中にも、拳って座中の明星と称えられた村井紫玉が、

「まあ……前刻の、あの、小さな児は?」

公園の茶店に、一人静に憩いながら、緋塩瀬の煙管筒の結目を解掛けつつ、偶と思った。……

髷も女優巻でなく、わざとつい通りの束髪で、薄化粧の淡洒した意気造。形容に合せて、煙草入も、好みで持った気組の婀娜。

で、見た処は芸妓の内証歩行という風だから、まして女優の、忍びの出、と言っても可い風采。

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