入学試験前後
本文約2,200字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
女学校への入学試験前後の光景を綴る。著者は、当時の激烈な競争の最中、合格を目指して算術や国語の特別課業に励んだ少女時代の記憶を回想する。周囲の受験生が家族に見守られる中、一人で試験に臨んだ孤独な心境や、試験当日の寒空の様子、そして合格通知を受け取った際の歓喜を描く。人生の基礎となる思春期を学校という枠組みの中で過したことに対する、当時の子供らしい自信や無力感、後の鋭い省察を収める。
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さほど長くない学生生活の間で、特に印象ふかかったことと云って何があるだろう。
女学校におれば、ちょうど十三四から人生を感じ始める十八九までの数年を過すのだから、善かれ悪しかれ、個人として思い出すことごとが、決してないというのではない。それらを書こうとすると、事件や感じがあまり自分だけのことであったり、罪ない思い出話以上のものになるおそれがある。さような点をさけ一体に見渡した時、何といっても心に忘られない跡を遺しているのは、入学試験前後の光景であろう。
五六年前、私が女学校に入ろうとする頃には、激しいと云っても、今ほど競争試験は激烈なものではなかったらしい。自分の目ざしていた学校は、何でも、十人に一人くらいの比であったろう。子供だから、勿論はたの成人ほど、そう云う数学的な心配はしない。ただ入りたい、入れないでは困る、と一心になって、下稽古をしたのである。
六年になり、そろそろ卒業が迫って来ると、一日、先生が、一人一人を立たせて、あなたはこれから何処へ入ろうと思いますか? と質問される。それが、当時では、云い難い一種のセンセーションを起させることで、自分の入学しようと言明する学校の名によって、その人の学術に対する自信が、裏書せられるように感じるのであった。
皆の入ろうとする処が判ると、暗黙の競争が行われ始める。一日おき位に、放課後一時間か二時間いのこり、算術や国語の特別課業を受ける時も、一つの読み間違い、一つの式の立て違いが、何だか、みな遠い彼方で、入学試験の間違いと連絡していそうな気がする。