大橋房子様へ
本文約1,200字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
一九二三年一月に記された本作は、大橋房子の脚本を読んだ著者から、その感想を伝える手紙の形式をとる。現代の女性が抱く共通の不満や希望、結婚や愛に対する全人的な考え方に共鳴しつつ、脚本から受ける詩的な感興や著者の人間観を綴る。女性がいかに人間らしい自由な生活を築き、自己の道を切り拓くべきかという切実な願いを込めて、相手の思想や姿勢に対して智的かつ感情的な対話を試みている。
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先日は脚本をわざわざまことに有難うございました。あれから丁度林町に出かけるところであったので、途中電車のさわがしさも忘れて拝見し始め、二三日うちにすっかり拝見致しました。いろいろの事を感じたので、早速、手紙を差上げたいと思いながら、少ししなければならない事があったので失礼致しました。
真個に今日の、少し自分と云うものを考え、周囲に批判的な眼を持つ私共位の女性は、皆な同じ不満、希望、失望を経験するものでございますね。あの御著書全部を貫いている思想的傾向は、その普遍的な性質に於て、私共のものであるとさえ申せますでしょう。或る箇所では、宛然自分の心がそこに顕れて物語っているように感じました。其にしても、総ての感情、理智の燃焼を透し、到る所に貴女のろうたきいきどおりとでも云うべきものが感じられるのは、非常に私の感興をそそりました。
きっと貴女の持っていらっしゃる詩興、詩趣によるものでしょう。結婚と云うものに対し、愛の発育と云うものに対し、抱いていらっしゃる貴女の全人的な趣味も其処にかなり多くの起因を持っているのではありませんでしょうか。
私も、女性が――人間全体が――もっと人間らしい自由な輝ある生活をしなければならないこと、特に女が、醒め、しっかり自分を視、人生を空虚な時間的推移でなく送るべきことを、しんみり希望し、期待して居ります。
勿論、そのためには、現在の諸状態が如何程不合理なものであるかも解っている積りです。けれども私は、或る状態の裡に全く偶然な機会によって出生した一人間が、自己の道をつける為、どんな努力をするか、失敗するか、終局に於いて成し遂げ得たかと云う全過程に深い愛と牽引を感じます。貴女は自分の愚かさ、間抜けさを、そんなに可愛がっていらっしゃらないでしょう。