或社会主義者
本文約1,400字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
若い社会主義者の青年は、父の反対や同志との交流を経て情熱を傾けるが、家庭を持ち雑誌社や会社で働くうちに運動から遠ざかっていく。かつての仲間から非難され、俗人としての生活に浸りながらも青年時代を追憶する日々を送る。一方、彼が過去に執筆した論文は、見知らぬ青年を動かし社会主義へ導いていた。理想と現実の狭間で、人間的に生きる一人の男の姿と、その志が静かに受け継がれていく過程を描く。
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彼は若い社会主義者だつた。或小官吏だつた彼の父はそのためにかれを勘当しようとした。が、彼は屈しなかつた。それは彼の情熱が烈しかつたためでもあり、又一つには彼の友だちが彼を激励したためでもあつた。
彼等は或団体をつくり、十ペエジばかりのパンフレツトを出したり、演説会を開いたりしてゐた。彼も勿論彼等の会合へ絶えず顔を出した上、時々そのパンフレツトへ彼の論文を発表した。彼の論文は彼等以外に誰も余り読まないらしかつた。しかし彼はその中の一篇、――「リイプクネヒトを憶ふ」の一篇に多少の自信を抱いてゐた。それは緻密な思索はないにしても、詩的な情熱に富んだものだつた。
そのうちに彼は学校を出、或雑誌社へ勤めることになつた。けれども彼等の会合へ顔を出すことは怠らなかつた。彼等は相変らず熱心に彼等の問題を論じ合つてゐた。のみならず地下水の石を鑿つやうにじりじり実行へも移らうとしてゐた。
彼の父も今となつては彼に干渉を加へなかつた。彼は或女と結婚し、小さい家に住むやうになつた。彼の家は実際小さかつた。が、彼は不満どころか、可なり幸福に感じてゐた。妻、小犬、庭先のポプラア、――それ等は彼の生活に何か今まで感じなかつた或親しみを与へたのだつた。
彼は家庭を持つたために、一つには又寸刻を争ふ勤め先の仕事に追はれたために、いつか彼等の会合へ顔を出すのを怠るやうになつた。しかし彼の情熱は決して衰へた訣ではなかつた。少くとも彼は現在の彼も決して数年以前の彼と変らないことを信じてゐた。が、彼等は――彼の同志は彼自身のやうには考へなかつた。殊に彼等の団体へ新にはひつて来た青年たちは彼の怠惰を非難するのに少しも遠慮を加へなかつた。
それは勿論いつの間にか一層彼等の会合から彼を遠ざけずには措かなかつた。そこへ彼は父親になり、愈家庭に親しみ出した。けれども彼の情熱はやはり社会主義に向つてゐた。彼は夜更の電燈の下に彼の勉強を怠らなかつた。同時に又彼が以前書いた十何篇かの論文には、――就中「リイプクネヒトを憶ふ」の一篇にはだんだん物足らなさを感じ出した。