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TORENDIA

女

本文約1,900字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

真夏の日の光を浴びる庚申薔薇の元で、一匹の雌蜘蛛が蜜蜂を襲い、その命を奪うという残酷な光景が繰り返される。やがて雌蜘蛛は薔薇の枝先に白い嚢を作り、無数の卵を産み落とす。新らしい生命が嚢の中で目覚め、成長した仔蜘蛛たちが薔薇へと繰り出していく中、役目を果たした母蜘蛛は産所を兼ねた場所で静かに眠りにつく。自然界における生命の営みと、その過酷な生と死の様相を静かに描く。

芥川龍之介

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🎧 女 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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雌蜘蛛は真夏の日の光を浴びたまま、紅い庚申薔薇の花の底に、じっと何か考えていた。

すると空に翅音がして、たちまち一匹の蜜蜂が、なぐれるように薔薇の花へ下りた。蜘蛛は咄嗟に眼を挙げた。ひっそりした真昼の空気の中には、まだ蜂の翅音の名残りが、かすかな波動を残していた。

雌蜘蛛はいつか音もなく、薔薇の花の底から動き出した。蜂はその時もう花粉にまみれながら、蕊の下にひそんでいる蜜へ嘴を落していた。

残酷な沈黙の数秒が過ぎた。

紅い庚申薔薇の花びらは、やがて蜜に酔った蜂の後へ、おもむろに雌蜘蛛の姿を吐いた。と思うと蜘蛛は猛然と、蜂の首もとへ跳りかかった。蜂は必死に翅を鳴らしながら、無二無三に敵を刺そうとした。花粉はその翅に煽られて、紛々と日の光に舞い上った。が、蜘蛛はどうしても、噛みついた口を離さなかった。

争闘は短かった。

蜂は間もなく翅が利かなくなった。それから脚には痲痺が起った。最後に長い嘴が痙攣的に二三度空を突いた。それが悲劇の終局であった。人間の死と変りない、刻薄な悲劇の終局であった。――一瞬の後、蜂は紅い庚申薔薇の底に、嘴を伸ばしたまま横わっていた。翅も脚もことごとく、香の高い花粉にまぶされながら、…………

雌蜘蛛はじっと身じろぎもせず、静に蜂の血を啜り始めた。

恥を知らない太陽の光は、再び薔薇に返って来た真昼の寂寞を切り開いて、この殺戮と掠奪とに勝ち誇っている蜘蛛の姿を照らした。灰色の繻子に酷似した腹、黒い南京玉を想わせる眼、それから癩を病んだような、醜い節々の硬まった脚、――蜘蛛はほとんど「悪」それ自身のように、いつまでも死んだ蜂の上に底気味悪くのしかかっていた。

こう云う残虐を極めた悲劇は、何度となくその後繰返された。が、紅い庚申薔薇の花は息苦しい光と熱との中に、毎日美しく咲き狂っていた。――

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