本文へ移動
TORENDIA

昔の思い出

本文約2,200字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

玄関横の四畳半を独占して物語や戯曲を書いていた少女時代を、宮本百合子が綴る。源氏物語に影響を受けた『錦木』や、西洋史を題材にした戯曲といった未発表の原稿を引越しの折に見返し、当時の創作への情熱を回想する。さらに、愛読した雑誌や印象に残る作家たちへの思いを辿りつつ、自身の処女作『貧しき人々の群』が初めて活字になった際のエピソードや、生れて初めて原稿料を手にした時の初々しい得意心までを、感傷と微笑みを交えて描き出している。

宮本百合子

速度
🎧 昔の思い出 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 3

玄関の横の少し薄暗い四畳半、それは一寸茶室のような感じの、畳からすぐに窓のとってあるような、陰気な部屋だった。女学校へ通う子供の時分から、いつとはなしに、私はその部屋を自分の勉強部屋と決めて独占してしまったのである。私はその部屋で、誰にも邪魔されないで、自分の好きなものを、随分沢山書いた。書いて、書いて、ただ書いただけだった。何といっても、まるっきり子供のことではあり、それらをどうしようという気持は少しもなかった。投書というようなことも嫌いで一度もしたことはなかった。

私は随分遊び好きな方だった。お友達を訪ねて行くなどということは、余りなかったけれども、決して温順なしい、陰気な子供ではなかった。したがって、じっと書斎に閉じ籠って、書いてばかりいたのだとは思えない。けれども、此の頃になって、その時分書いたものを見ると、いつの間にこんなに沢山書いたのだろうと、不思議な気がする位である。よく子供達が大ぜいで、きゃっきゃと騒いでいながら、途中にこっそり抜けだして、ちょっとの間に花の絵など描いてきて、また一緒になって遊んでいるのを見ることがある。たしか、ああいう、強いられることのない自由な感興が、子供らしいものを、絶えず書かしていたのに違いないと思う。そういう場合、あの自分だけの書斎は、私のために大変役立った。

此の間引越しの時、古い原稿を取出して、読み返して見るのはかなり面白かった。

宮本百合子の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本