脱殻
本文約8,800字 ・ 読了時間 約18分
あらすじ(AIが作成しました)
ある夫婦の日常的な確執と、その根底にある心理的な揺れを描く。妻である主人公は、夫の冷淡な態度や自らの荒ぶる感情に翻弄され、愛を求めながらも互いの心がすれ違うもどかしさに苦悩する。夫の帰りを待つ夜、彼女は嫉妬や不安を募らせては、再び夫への情愛を確認しようと葛藤を繰り返す。対立と和解を繰り返す二人の危うい関係性の中に、個々の孤独と、他者と真に分かり合うことの難しさを浮き彫りにする。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
時は移つて行く。今日の私はもう昨日の私ではない。脱殻をとゞめることは成長の喜びである。
その脱殻の一つを、今私はその頃の私に捧げようと思ふ。
いつの頃からともなしに私はさうなつて来た。どうした訳でなのかもわからない。寧ろわかることを避けて居る。面倒くさがつて居る。私はたゞ、此頃私はかうなんだと思つてみて居る。
「なんて腐つたやうな生活なんだ!」
かう言つてあの人は憤る。すると私もさう思ふ。
「まるで腐つてるんだ。蛆が湧くぜ今に!」
唾でも吐きかけたいやうな顔つきをして、あの人は私を見下して起つて行く。全くそれに違いない。適切な言葉だと思ふ。だけど、たゞさう思ふだけで、一向痛切にそれが響かない。私の腐つた心には、もう薬もなんの利き目がないのかも知れないなどゝ思ふ。
パラ/\と自棄に頁を繰る音がする。と、やつぱり相手を求める私の力でないやうな力に操られて、私はつと後を追つて行く。
「ね!」とぺたり坐つて、あの人の膝にしなだれかゝる。あの人は黙つて居る。
「ねつたら!」
「おい!」
いつもの慍つてる時に出る声の返辞。すると私は、無上に気に入らなくなつて、何がなんでもそれをどうかしなければならなくなる。
「いやあよ!」と鼻声になつて、膝の上にのしかゝつて、猫が自分の寝どこを工合よく作る時のやうに、ぐん/\と体の半分を机とあの人の体との間に割り入れてしまふ。
「よ! 厭だつてば、そんなに慍つたやうな顔をしてちやあ。」と仰向けになつて見上げながら、首に手をかけてぐい/\と搖らせる。その時に一寸、少し大き過ぎると思ひ/\したこの人の鼻が、此頃は一向気にならなくなつたことなどを思つたりする。
「ねえ! よう!」
それでも猶あの人の頬は引締つて、丁度内側から吸ひふくべでもかけたやうに、肉がこけて見える。そんな時には、頬骨がいやに高く目に立つて、角度の多い顔になる。そのいつまでもほぐれない顔色を見て居るうちに、それが女の資格を失ふことでゝもあるかのやうに、私の心は焦慮れて口惜しがつて来る。そして意地になつて男の心を随はせようとかゝる。
「ようつたらよう!」
「煩い!」