冬を迎へようとして
本文約4,800字 ・ 読了時間 約10分
あらすじ(AIが作成しました)
友人との再会を機に、自身と友人の半生を綴る。かつて社会の風潮に抗い悶えた日々を振り返り、自然主義の潮流の中で自らをも不良少女と称した過去と、その後の結婚生活による苦難を吐露する。貧困や心の迷いの中で、愛や犠牲の真の意味を自ら見出し、人間として生きるための道筋を模索する。来るべき冬に備え、秋の今こそ懸命に学び、深く愛を持って生き抜くことへの誓いを、友人へ宛てた手紙の形式で描き出す。
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――(櫻田本郷町のHさんへ)――
今日はほんとうにお珍しいおいでゝ、お歸りになつてから「お前は今日よつぽどどうかしてゐたね。」といはれましたほど、私の調子が狂ひました。ほんとうにあなたはめつたにお出ましにならないので、私どものやうに引越してばかりゐますと、ついあなたが御存じない家も出來てまゐります、今日はほんとうに嬉しうございました。
けれど、これといつて何一つ取りとめたお話もいたしませんでしたのねえ、狹い私の家中を驅け廻つてゐるまあちやんとせつちやんの遊びは、二人[#ルビの「ふたり」は底本では「わたし」]のやりかけた話をたび/\さらつて行きました、私はたゞ、あなたが(このあなたがは、とても字では表はせないけれど、語氣を強めて言つているのですよ)兎角まあちやんの聲に母親らしい注意をひかれがちなのを、不思議さうに珍らしさうに眺めてゐました。ほんとにまあちやんの大きくおなんなさいましたこと、今更らしく思つてみれば、あなたもK子さんも立派な母親なんですわね。K[#底本では「K」が欠落]子さんとこのせつちやんたら、この頃では私の家へひとりで遊びになど來るやうになりました。門の戸が開いたと思ふと小さな足音がして、いきなりお縁側のところで「さいなら!」などゝ言つてゐます。