TRENDIA CLASSIC

冬を迎へようとして

水野仙子

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――(櫻田本郷町のHさんへ)――

今日はほんとうにお珍しいおいでゝ、お歸りになつてから「お前は今日よつぽどどうかしてゐたね。」といはれましたほど、私の調子が狂ひました。ほんとうにあなたはめつたにお出ましにならないので、私どものやうに引越してばかりゐますと、ついあなたが御存じない家も出來てまゐります、今日はほんとうに嬉しうございました。

けれど、これといつて何一つ取りとめたお話もいたしませんでしたのねえ、狹い私の家中を驅け廻つてゐるまあちやんとせつちやんの遊びは、二人[#ルビの「ふたり」は底本では「わたし」]のやりかけた話をたび/\さらつて行きました、私はたゞ、あなたが(このあなたがは、とても字では表はせないけれど、語氣を強めて言つているのですよ)兎角まあちやんの聲に母親らしい注意をひかれがちなのを、不思議さうに珍らしさうに眺めてゐました。ほんとにまあちやんの大きくおなんなさいましたこと、今更らしく思つてみれば、あなたもK子さんも立派な母親なんですわね。K[#底本では「K」が欠落]子さんとこのせつちやんたら、この頃では私の家へひとりで遊びになど來るやうになりました。門の戸が開いたと思ふと小さな足音がして、いきなりお縁側のところで「さいなら!」などゝ言つてゐます。

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