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TORENDIA

犬の威厳

本文約2,400字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

結婚を控えた君島の話から、男の風采や好男子についての話題が仲間内で盛り上がる。その中で、よしのという女性が自身の夫への愛着を語りつつ、世の男性にどこか満たされない物足りなさを抱いていると告白する。彼女はその空虚感の正体について、かつて原で見かけた、威厳に満ちた一匹の大きな犬の姿を思い出し、自身が人間の中に追い求めていた理想の風采と威厳を、その犬に見出していたという経験を明かす。

水野仙子

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🎧 犬の威厳 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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『あなたは、あなたの旦那樣の御容子をすつかりお氣に召してゐらつしやる?』と、いきなりよしのさんの言葉が私に向いて來た。

『え?』

私はたいへんどぎまぎした。そんな質問が私の上にまで、利口な聽手になつて、默つてばかりゐた私にまで及んで來ようとは、ちつとも豫期しなかつたのである。

それは先刻から隨分いろんな話が出だ。さうして今度結婚することになつた君島さんの大切な人の話から、男の風采つてものが暫く話題の花形になつた。男の仲間でいふ謂はゆる好男子と、女の眼から見た好男子とは形が違ふなんてことも大分言はれてゐた。

私は話の切れめにふと顏をあげたのだつた。するといきなり『あなたは…‥』とよしのさんに水を向けられたので、ほんとに困つてしまつて、一寸の間下をむいてゐた。

『あゝ、さうださうだ、さうだ私は今、たつた今それを思ひ出した!』と、よしのさんは續いて調子はづれな聲を出して言つた。

またふいと顏をあげてみると、やつぱりその目はちよいと私にそゝがれたけれど、どんなにその事を言ひ表したらいゝかにわくわくしてゐるやうな顏のうごきを見ると、私はすつかり安心してしまつた。

私の話をひき出すやうに言ひかけたのは、よしのさん自身の話の冒頭だつたのだ。ふいと顏をあげたはづみがきつかけになつたゞけのことなんだ。

で、私はまた安心して靜な聽手になつた。

『私は良人を崇拜してゐてよ、また愛してもゐるわ。(聲笑起る)まあ、笑ちつやいけないわ、おのろけのつもりぢやないんだから。仰しやるまでもありませんて? まあ、なんとでも仰しやい……でね、私は良人に對してこれつていふもの足りなさも持つてゐないけど、そりあ御馳走を喰べたがつたり、時々疳癪を起して――あれでて隨分疳癪もちよ、私を擲つたりするけれど、でも自分が惡いと思つた時にはあとですぐ謝るわ。でね、柄もあのとほり大きいし、さういつちやなんだけれど、風采だつてさう見すぼらしいことはないと思つてゐるのよ。

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