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TORENDIA

菠薐草

本文約1,800字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

村の一族に受け継がれる美貌の起源と、語り手の家系が歩んだ変遷を綴る。猟を嗜む美男が山中で偶然出会った娘との縁から、やがて一家に美人が輩出されるようになる過程を描く。その中心人物であるかつての美少女は、晩年に釣りを愛する豪胆な老婦人となり、一族の繁栄を支えた。しかし、歳月とともに家運は傾き、かつて鹿を吊るした柿の木や往時の記憶も、火事や時代の移ろいの中で次第に失われていく。郷土の風景とともに流れる一族の歴史を静かに振り返る。

長塚節

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🎧 菠薐草 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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余が村の一族の間には近代美人が輩出した。それが余の母まで續いて居る。母をうんだおばあさんといふのは七十四になるがまだ至つて達者な人である。おばあさんの眉は美しかつたらうといふと、唯おまへの母の眉よりはよかつたといつては何時でもおばあさんは微笑する。此おばあさんの又おばあさんに當つたといふのが美人のはじめである。四十の歳から太り出したといふのでゆつたりと大きな躰であつた相だ。八十四までながらへた人なので余の母は知つて居る。此人に就いて噺があるのである。其夫になつた人は獵が好きで、鐵砲の上手な人で、春の麥畑へ鳩のおりたのを見掛けてエヘンと咳をすると鳩が驚いて首を擡げる、其刹那にドンと火葢を切るのに嘗て逸したことがないといふのであつた相だ。元來余が郷土といふのは江戸へ荷物を運ぶにも鬼怒川から船で下せば二日でとゞく。徒歩で行つても日のあるうちに千住へつく。蟲干の時などには今でも背中の所の擦れた道中合羽が出ることがあるが、其擦れたところは風呂敷包の痕で、そんなに荷物を背負つても一日には骨が折れなかつたといふ程江戸には近いのであつた。それでも猪や鹿が出沒して作物を荒すので櫓を掛けて猪を打たといふ時代もある。此枝へ吊るして鹿の皮を剥いだのだといふ澁柿の大木があつた。余が其柿の木を知つた頃は鹿を吊るしたといふ枝は梯子も屆かぬ程上の方であつた。其位だから其頃は若しも天象の變化があるとかどうとかいふと喧しい程雉子が鳴いたもので、豌豆畑へ行けば雉子の卵がいくらでも採れたといつてゐる。鐵砲の上手であつたといふのは其時代の人であつた。或時獵に出て娘を見初めて貰つて來たのだといふ。其が後のふとつたおばあさんである。

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