長塚節歌集 中
本文約31,700字 ・ 読了時間 約64分
あらすじ(AIが作成しました)
鬼怒川の旅路や秋の情景、日常のささやかな出来事、各地への紀行や人との交流を綴る短歌集。折々の生活の中で見つめる自然の移ろい、植物の姿、そして山野に分け入った際に目の当たりにした風景が詠まれる。また、知人や身近な人々へ送る歌、古物への関心、時勢への感慨など、日常生活の機微や旅先での感動が多様な情景描写と共に収められている。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
明治三十七年
青壺集(二) 郷にかへる歌并短歌
草枕旅のけにして、こがらしのはやも吹ければ、おもゝちを返り見はすと、たましきの京を出でゝ、天さかる夷の長路を、ひた行けど夕かたまけて、うす衾寒くながるゝ、鬼怒川に我行き立てば、なみ立てる桑のしげふは、岸のへになべても散りぬ、鮭捕りの舟のともしは、みなかみに乏しく照りぬ、たち喚ばひあまたもしつゝ、しばらくにわたりは超えて、麥おほす野の邊をくれば、皀莢のさやかにてれる、よひ月の明りのまにま、家つくとうれしきかもよ、森の見ゆらく、
短歌
太刀の尻さやに押してるよひ月の明りにくれば寒しこの夜は
人々のもとにおくりける歌 一 いにしへのますら武夫も妹にこひ泣きこそ泣きけれその名は捨てず
世の中は足りて飽き足らず丈夫の名を立つべくは貧しきに如かず
二 沖の浪あらし吹くとも蜑小舟おもふ浦には寄るといはずやも
葦邊行く船はなづまず沖浪のあらみたかみととりこやす
三 明治三十五年の秋あらし凄まじくふきすさびて大木あまた倒れたるのちさま/″\の樹木に返りざきせしころ筑波嶺のおもてに人をたづねてあつきもてなしをうけてほどへてよみてやりける歌
いづへにか蕗はおひける棕櫚の葉に枇杷の花散るあたりなるらし
苦きもの否にはあれど羹にゝがくうまけき蕗の薹よろし
くゝたちの蕗の小苞ひた掩ひきのおもしろき蕗の小苞
秋まけて花さく梨の二たびも我行けりせば韮は伐りこそ
明治三十五年秋十月十六日、常毛二州の境に峙つ國見山に登りてよめる歌二首
茨城は狹野にはあれど國見嶺に登りて見れば稻田廣國
國尻のこの行き逢ひの眞秀處にぞ國見が嶺ろは聳え立ちける