弥彦山
本文約4,000字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
信濃川の長橋でその雄姿に魅せられた著者が、九月に弥彦山への登攀を試みる。佐渡から越後の寺泊へと渡り、道中の風景や人々の営みに触れながら、早朝の弥彦神社を経て山頂へと登る。山頂からは日本海や蒲原平野の広大な眺望が広がり、遠く新潟の町やかつて毒消し売りとして往来した女性たちの力強い生活の面影に思いを馳せる。下山後は吉田や三条へと歩を進め、越後の象徴として聳える弥彦山の秀麗な姿を改めて見つめる紀行文。
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新潟の停車場を出ると列車の箱からまけ出された樣に人々はぞろ/\と一方へ向いて行く。其あとへ跟いて行くとすぐに長大な木橋がある。橋へかゝつてぶら/\と辿つて來ると古傘を手に提げた若者が余の側へ寄つて丁寧な辭儀をして新潟はどちらへお泊りですかと問うた。彼は宿引であつたのだ。何處といふことはないが郵便局へ用があるのだから其方へ行かねばならぬと斷る積りでいふと、局ならばすぐ手前のうしろに當つて居ります、手前には電話もありますスケに佐渡の汽船へお差支を掛けるやうなことは致しませんから泊つて下されといつた。余は構はずにぶら/\來ると宿引も跟いて來る。橋の向は新潟の市街で水に臨んで人家が長く接續して居る。後を顧みると岸が遙に遠くなつて茂つた葦が短くなつて見える。此所で漸く橋は半分位迄來て居たのである。此橋は立派なものぢやないかと宿引へいつたら、へえ四百卅間ござりますからと宿引がいつた。橋の下には濁流が溶々として漲つて北へ海につゞいて居る。西南の方を望むと此大江の水の通ずる區域は只一帶の平野と見えて空を遮るものがない。其間に只一つの山が晴れかゝつた雲の間から射しかける夕日の空を背にして丁度水上に聳えて居るやうに見える。余は呆然として此周圍に見とれてしまつた。橋の欄干に凭れながら荷物に挾んであつた地圖を披いて見ると宿引は此時まだ余の傍に居つたのであつたが旦那あれはお彌彦山でこゝから八里ございます、丁度これに當りますと地圖を覗き込んで指しながらいつた。余が彌彦山を知つたのは斯くして此信濃川の長橋に立つてゞあつた。どうしても一度登攀して見たいといふ念が此時油然として起つた。此は九月の十三日の雨上りのことである。