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TORENDIA

山陰土産

本文約51,800字 ・ 読了時間 約104分

あらすじ(AIが作成しました)

七月八日、作者は次男の鶏二を伴い大阪から山陰道へ向かう旅に出る。初めて訪れる関西地方の平坦な農村から山間へと進み、慣れない地名や車窓の風景を眺めながら旅情を深める。松江では静かな湖畔の宿で過ごし、その後訪れた津和野では町長や教育関係者ら地元の歓迎を受ける。森鴎外の生地でもあるこの地で土地の気質に触れ、夜汽車で山陰地方を後にするまで、親子二人で巡った未知の土地での体験と親子の交流を綴る。

島崎藤村

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一 大阪より城崎へ

朝曇りのした空もまだすゞしいうちに、大阪の宿を發つたのは、七月の八日であつた。夏帽子一つ、洋傘一本、東京を出る前の日に「出來」で間に合はせて來た編あげの靴も草鞋をはいた思ひで、身輕な旅となつた。

こんなに無雜作に山陰行の旅に上ることの出來たのはうれしい。もつとも、今度は私一人の旅でもない。東京から次男の鷄二をも伴つて來た。手荷物も少なく、とは願ふものの、出來ることなら山陰道の果までも行つて見たいと思ひ立つてゐたので、着更へのワイシヤツ、ヅボン下、寢衣など無くてかなはぬ物の外に、二三の案内記をも携へてゆくことにした。私達は夏服のチヨツキも脱いで、手提かばんの中に納めてしまつた。鷄二は美術書生らしい繪具箱を汽車のなかまで持ち込んで、いゝ折と氣にいつた景色とでもあつたら、一二枚の習作を試みて來たいといふ下心であつた。畫布なぞは旅の煩ひになるぞ、さうは思つても、それまで捨ててゆけとはさすがに私もいへなかつた。かうして私達二人は連れ立つて出かけた。汽車で新淀川を渡るころには最早なんとなく旅の氣分が浮んで來た。

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