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TORENDIA

独り旅

本文約1,900字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

汽車を降り、霧雨が降る山路を徒歩で目的地へ向かった「私」は、宿泊先で偶然居合わせた女性と知り合う。女子大出身で渡米を控えるその女性と、宿での一晩を語り明かし、翌朝には山路を共に歩く。後日、一人で旅を続けるなかで、「私」はかつての道連れに思いを馳せる。本作は、集団生活に慣れた都会人が一人旅を通じて感じる孤独や、芸術や生活を分かち合える友人の存在、そして自然と向き合う際の心象風景を綴る。

若杉鳥子

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🎧 独り旅 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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汽車がA駅を通過する頃から曇って来て、霧で浅間の姿も何も見えなくなった。冷たい風と一緒に小雨が降り出して、山際の畔で、山羊が黙々と首を振っている。三つめの駅で汽車を降りた時には、もう日が昏れかけていたし、自動車もあるにはあったが、目的地まで半里だというので、ナニ歩けないことはない――脚には少し自信があるので、私は日和下駄のまま歩き出した。

街はずれで、青い事務服をお揃いに被た娘さん達の群に逢う。この辺の女工さん達が監督に引率されて、遠足にでも出かけた帰りらしい。雨に濡れながら駅の方へ急いでいた。街を出はずれると、それっきり人ッ子ひとり通らない。雨はますます激しくなり、道は爪先き上がりになってくる、所々にある木小屋なども見えなくなると、左は奥深く真っ暗な落葉松の森林だ、右は崖っぷちで、もうもうと立ち罩めた霧の底を流れてゆく水勢だけが、見えないので不気味にすさまじい。しまった、と思ったが、引き返すのも口惜しかった。だがこんな処で霧に包まれてしまったら、どうなるのか解らないという不安に私は段々駈られ出した。歩くにも何一つ目標がなく、眼前に折り重なっていた山々も悉く姿を消してしまって、ただ自分だけが、雨と汗にぬれそぼちながら、徒に霧の中を泳いでいるのだった。少しでも薄暮の光のあるうちに、目的地まで辿り着こうと私は焦った。然し一度来たことのある山路なので、あまり迷いもせずにやっとめざす、その旅宿の灯を見つけることができた。

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