TRENDIA CLASSIC

鬼六

楠山正雄

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ある村の真ん中に、大きな川が流れていました。その川は大へん流れが強くて速くて、昔から代々、村の人が何度橋をかけても、すぐ流されてしまいます。村の人たちも困りきって、都で名だかい大工の名人を呼んで来て、こんどこそけっして流れない、丈夫な橋をかけてもらうことにしました。

大工はせっかく見込まれて頼まれたので、うんといって引き受けてはみたものの、いよいよその場へ来てみて、さすがの名人も、あっといって驚きました。ひっきりなし、川の水はくるくる目の回るような速さで、渦をまいて、ふくれ上がり、ものすごい音を立ててわき返っていました。

「このおそろしい流れの上に、どうして橋がかけられよう。」

大工は、こう独り言をいいながら、ただあきれて途方にくれて、川の水をぼんやりながめていました。

すると、どこからか、

「どうした、名人、そこで何を考えている。」

という者がありました。

大工が驚いて、見まわすとたん、水の上にぶく、ぶく、ぶくと大きな泡が立ったと思うと、おそろしく大きな、鬼のような顔がそこにぽっかりあらわれました。

大工は、妙な、気味の悪いやつが出て来たと思いながら、わざとへいきで、

「うん、おれか。おれは頼まれたから、この川に橋をかけようと思って考えているのだ。」

といいました。

すると鬼は顔じゅう口にして、ぎえッ、ぎえッ、ぎえッと、さもおもしろそうに笑いました。そうして、大きな歯をむき出したまま、

「ふ、ふ、ふ、お前、いくら名人でも、大工にゃあこの橋はかからないぞ。」

といいました。

「じゃあ、だれならかかる。」

「そりゃあこのおれならかかるよ。」

「じゃあ頼む、お前さん後生だ、代わりにかけておくれ。」

「そりゃあかけてやってもいいが、何をお礼にくれる。」

「そりゃあかけてくれればなんでも上げるよ。」

「じゃあお前、その目玉をよこせ。」

「なに、目玉だ。」

大工もこれには少し驚きましたが、なにその時はその時でどうにかなるだろうと思って、

「よし、よし、お安い御用だ。」

といって、承知してしまいました。

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