中学へ上がった日
本文約2,200字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
卒業式を終え中学への進学を控えた哲夫は、旧友の宮田との別れや、試験会場で見かけた松葉杖の少年を思い浮かべる。八百屋で働くことを決めた宮田や、複雑な事情を抱える周囲の少年たちの姿を通じ、哲夫は成長の過程で直面する葛藤や社会との関わりを感じ取る。入学式当日に起きた些細な喧嘩をきっかけに、中学生になった自覚と孤独を抱えながら、力強く新たな生活へ踏み出す少年の内面の揺らぎを描く。
💰 この本を応援する(投げ銭)
毎日いっしょに勉強をしたり、また遊んだりしたお友だちと別れる日がきました。今日は卒業式であります。式の後で、男の生徒たちは、笑ったり、お菓子を食べたり、お茶を飲んだりしましたけれど、女の生徒たちは、さすがに悲しみが胸につかえるとみえて、だれも笑ったり、おせんべいを食べたりするものはありませんでした。
哲夫は、校長先生のおっしゃったことが、いつまでも耳に残っていました。
「日本の非常時のことは、もうみんなよくわかっていると思います。これから世の中へ出て働くものも、また上の学校へいって学ぶものも、第一に体を大事にして、いかなる試練にも、打ち勝つ覚悟がなければならない。そして、お国のため、世の中のために働く、りっぱな人間となってください。これが、私からみなさんに申しあげる最後の言葉です。」
いよいよ卒業した生徒たちが、お免状を持って家へ帰るときでした。校長先生は、わざわざ廊下へいすを持ち出して、一人、一人の顔をじっとごらんになりました。そのとき、眼鏡の底の先生の目は、涙でうるんでいました。男の生徒の中には、その前を平気で通ったものもあるが、女の生徒たちは、いずれもハンカチで目を押さえて過ぎました。
哲夫は、学校の門を出ると、やはり悲しみがこみ上げてきました。もう明日からは、この門を通らないであろう……と、幾たびとなく振り向いて、あちらへ道を曲がったのです。
「宮田くん。」と、彼は、前へいく少年に声をかけました。少年は、立ち止まって、哲夫を見返ると、にっこり笑いました。
「宮田くんは、どこへ入ったの?」と、哲夫はききました。少年は、すこし顔を赤くして、
「僕は、もう学校をよして、家のおてつだいをするよ。」と、いいました。
「そうかい。」と、哲夫は、うなずきました。
二学期のときでした。宮田がいったことを思い出したのです。
「僕、こんどの試験に甲を三つとれば、お母さんが、自転車を買ってくれるといったよ。」