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TORENDIA

恋愛の微醺

本文約4,200字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

恋愛という感情が人の生活や精神に与える影響や、既婚者を取り巻く恋愛のあり方を綴る。男女が恋をすることで生活が潤い、容貌や内面に変化が生じる様子を考察する一方で、家庭を持つ身として直面する葛藤や社会的な規範、悲劇性を伴いがちな恋愛の性質に触れる。さらに、自身の経験や周囲の事例を引いて、周囲に迷惑をかけないつつましい恋愛や、経済を超越した精神的な恋愛の理想を語り、将来的に自身の恋愛論を書きたいという意欲を記す。

林芙美子

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🎧 恋愛の微醺 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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恋愛と云うものは、この空気のなかにどんな波動で飛んでいるのか知らないけれども、男が女がこの波動にぶちあたると、花が肥料を貰ったように生々として来る。幼ない頃の恋愛は、まだ根が小さく青いので、心残りな、食べかけの皿をとってゆかれたような切ない恋愛の記憶を残すものだ。老けた女のひとに出逢うと、娘の頃にせめていまのようなこころがあったらどんなによかったでしょうと云う。だから、心残りのないように。深尾さんの詩に、むさぼりて 吸へどもかなし 苦さのみ 舌にのこりて 吸へどもかなし、ばらの花びら こんなのがある。どんな新らしいと云う形式の恋愛でも、吸へどもかなし 苦さのみで、結局、魂の上に跡をとどめるものは苦さのみじゃないだろうか。私は新らしいと云う恋愛の道を知らない。新らしいと云うのは内容のかわった恋愛と云う意味ではなく、整理のついた恋愛を云うのかも知れないけれども、すぐ泥にまみれたかたちになってしまう。――懶惰で無気力な恋愛がある。仕事の峠に立った、中年のひとたちの恋愛はおおかたこれだ。

この間も、ある女友達がやって来て、あなたはいま恋愛をしていないのかと訊く。恋愛もいいけれど怖いようなと云うと、その友達は恋愛になまけてしまってはいけない、恋をすれば、仕事も逞ましくなり、躯も元気になるものだと話していた。

その友達の話して行った中、こんな例がある。子供が二人あって、良人に死別した絵を描く若い寡婦が、恋の気持ちを失って来ると、心がだんだん乾いて来て、生活がみじめになって、絵もまずくなり、容貌も衰えて、どうして生きていいのか解らなかったのだけれども、ふとすきな青年をみつけて、その男と仲よくなってしまったら、急に容貌も生々と美しくなり、絵もうまくなり、そうして、何より面白いことには、二人の子供を叱らなくなったと云うことだ。恋愛のない時分は、いつも苛々していて、朝から晩まで子供ばかり叱っていたのだと云う。

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