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TORENDIA

「リラ」の女達

本文約13,600字 ・ 読了時間 約28分

あらすじ(AIが作成しました)

銀座の料理店「リラ」で働く女給の直子は、客である男と密かに愛し合っている。互いに家庭を抱えながら、雪の降る夜に将来を誓い合う二人。一方、店には生活の苦しさや虚無感を抱えた女たちが集い、酒を飲みながら寂しげな歌を歌う日々を送る。そんなある日、店に持ち込まれた新聞記事が、愛し合っていた二人の行く末を突きつける。本作は、行き場のない閉塞感の中で揺れ動く人々の心情と、酒場の日常を描く。

林芙美子

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1 もう、いゝかげん退屈しきつて、女達は雀をどりの唄をうたつてゐた。――その雀をどりの唄は、じいつと聞いてゐると、女達[#「女達」は底本では「達」]自身の心境を語つてゐるやうで、外の雪のけはいと一緒に、何か妙に譚めいて聞えた。

料理店リラの前の赤い自動電話の屋根の上には、もう松茸のやうに雪が深くかぶさつて淡い箱の中の光りは、一寸遠くから見ると古風な洋灯のやうにも見える。

まだ暮れたばかりなのに、綿雪が深々と降りこめて、夜更けのやうに静かだ。リラの鎧戸風な窓からは、さつきの雀をどりの唄が、まだしんみりと流れて聞えて来る。

洋灯のやうな自動電話の中には、紺の玉羅紗のオーヴァを着た中年の男が、時々疳性に耳を掻きながらさつきから、何か受話機に話しかけてゐた――時々チラチラとリラの入口を眺めながら、リラの様子を窺つてゐる風でもある。

息でくもつた電話室の外の街路は、頭を白く染めた電車や自動車が、ひつきりなしに走つて行く。「えゝツ? だから、一寸でいゝんだから出ていらつしやい、僕が行つても、いゝんだけれど、岡田なンかにみつかると厭だから‥‥判つたア?」電話の男がこんな風な事を云つて、ガチヤリと受話機をもとへもどした。偶と入口を向いたその男の顔には、美しい薄笑ひが残つてゐて、まるで少年のやうに血があがつてゐる。――男はポケットから煙草を取り出すと、ライタアで器用に火を点じた。その時、リラの緑硝子の扉が開くと羽織も着てゐない細々とした姿の女が、いまのいま雀の唄をやめて、仲間から離れて来たと云ふ風に、口のうちでありやせ、こりやせとつぶやきながら、それでも眼だけはおろおろとして出て来た。出て来ると、厚い雪の中を草履のまゝコトコトと二三軒もさきの街角の暗がりまで歩いて行く。

男は、街角に立つた女の後姿を眼にすると、煙草の火を何度も赤く呼吸させながら、電話室の重い扉を開けて、やつぱり女と一緒の方向に歩ゆんで行つた。

「寒かない?」

「いゝえ‥‥」

「直子さん、なかなか逃げ口上がうまくなつた」

「あらア、あんな厭味なこと‥‥」

「まア、何でもいゝさ、この儘どつかへ行つてしまひたいナ」

「えゝ‥‥」

「行つてもいゝ?」

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