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TORENDIA

朝やけ

本文約11,800字 ・ 読了時間 約24分

あらすじ(AIが作成しました)

酒場の女・喜久子との情愛に窒息しそうな閉塞感を抱く「おれ」は、夜半に酔いから醒めて、彼女の存在や客の中野との関係を思い悩みます。喜久子の胸の温もりにすがりつつも魂の枯渇を感じる「おれ」は、二人をめぐる感情の重荷に耐えかねていました。夜が明け、ビルの屋上で清浄な朝焼けを眺める中で、おれは彼女の体温から離脱し、盲目的な愛情との決別を静かに決意します。

豊島与志雄

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明るいというのではなく、ただ赤いという色感だけの、朝焼けだ。中天にはまだ星がまたたいているのに、東の空の雲表に、紅や朱や橙色が幾層にも流れている。光線ではなくて色彩で、反射がない。だからここ、ビルディングの屋上にも、大気中にまだ薄闇がたゆたっている。手を伸してみると、木のベンチには、しっとりと朝露がある。清浄な冷かさだ。

おれは今、この冷かさを感じ、この朝焼けを眺めている。いつ眼覚めたのか自分でも分らない。意識しないこの覚醒はふしぎだ。或はまだ酔ってるのかも知れない。夢の中にいるような気持ちである。――だが、この屋外に出て来る前、夜中には、たしかにはっきり眼が覚めた。

その夜、おれは日本酒を飲み、ビールを飲み、更にウイスキーを飲んだ。この最後のやつ、粗悪なウイスキーは、屋台の飲み屋などに氾濫してるカストリ焼酎と同様、敗戦後の悲しい景物だ。その強烈なアルコールは、急速に意識を昏迷させるが、熟睡……だかどうだか分らない睡眠中にも、神経中枢に作用し続けて、その刺戟[#「刺戟」は底本では「剌戟」]のため、夜中にぱっと眼を覚めさせる。そして眼が覚めたら、あとはなかなか眠れないものだ。そのことを、おれは度重なる経験によって知った。

だから、眼が覚めるとおれは、もう諦めて、布団の中でぱっちり眼を開いていた。雪洞の中の二燭光が、いやに明るい。いけないのは、女がいっしょに寝ていたことだ。女……と、そう言い切ってしまえるほど、おれの心はもう喜久子から離れていた。いや、初めからおれは喜久子を愛したことが本当にあるか、どうか怪しいものだ。

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