白い朝
本文約16,800字 ・ 読了時間 約34分
あらすじ(AIが作成しました)
中学生の正夫は、遊びに来るよう招かれた芝田の家を訪れる。不在の主を待つ間、正夫は駒井菊子と対面するが、彼女の様子に不安を覚える。やがて泥酔して帰宅した芝田は、債務問題に端を発した康平との対立や、自身の抱える複雑な状況を周囲に滲ませる。本作は、芝田家の周囲で起こる出来事を通じ、正夫が感じ取る人間模様や、白く霧が立ち込める朝の気配の中で展開される、大人たちの危うい関係と心理的な波紋を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
芝田さんの家の門は、ちょっと風変りです。その辺は屋敷町で、コンクリートの塀や、鉄格子の門扉や、御影石の門柱などが多く、至って近代的なのですが、そのなかに、道路より少しひっこんで、高さ一間半ほど、太さ二抱えほどの丸木が、二本立ち並び、木の格子がとりつけてあります。それが芝田さんの家の門です。丸木の門柱の方は、郊外の植木屋さんにでもありそうなもので、古く朽ちかけていますが、木の格子扉の方は、新らしく白々としています。昼間は、その格子扉が左右に開かれていて、中は砂利を敷いた表庭、竹垣で囲ってあり、檜葉の植込が数本、左手が、玄関になっています。
或る時、その門柱のそばに、乞食風な男が、小さな風呂敷包みを地面において、じっと屈みこんでいました。すると、外出する芝田さんが、そこを通りかかって、じろりと男の方を一瞥したまま、なんとも云わずに、出ていってしまいました。――そういう風な門ですし、そういう風な芝田さんです。
その門を、正夫はすたすたとはいっていきました。陰欝に曇った無風状態の天気のせいか、門柱の黝ずんだのと格子扉の白々しいのとが、殊に目立っていますが、正夫は通りなれているのです。ところが、門をはいってから、少し足をゆるめ、小首をかしげて、あたりを見廻しました。そしてふと、檜葉の茂みに黒猫が一匹のぼっているのが、目につきました。
おや! といった様子で、正夫は黒猫をながめました。黒猫はじっとしていましたが、やがて、頭を振り、口に手をあてました。何かの合図のようです。そうだ、黒猫ではありません。チビです。小さなおかしな奴で、小悪魔なんかと呼ばれてる奴です。
――なあんだ、チビか。
正夫はそう云いすてて、軽蔑したように、そのまま向きをかえ、内玄関の方へやって行きました。
正夫は茶の間の縁側に腰をかけて、煙草をふかしました。今日は、銘仙の袂の着物をきています。中学生にしては、銘仙の袂の着物は少し早すぎますが、それは中根のおばさんがきせてくれたのです。煙草は少し生意気ですが、袂の着物のてまえ、いたずらにふかしてみてるのです。