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TORENDIA

戦争と一人の女

本文約9,100字 ・ 読了時間 約19分

あらすじ(AIが作成しました)

戦争中の日本で、野村と一人の淫奔な女は、敗戦による滅びを前提とした刹那的な同棲生活を送る。家庭的な愛情を欠き、互いに肉体関係や不満足を抱えながらも、空襲の恐怖や生存への切迫感の中で、二人は不思議な連帯感と執着を深めていく。やがて戦争が終わり、それまでの緊張関係が崩れ去る中で、野村は女の肢体を貪りながら、二人の関係の行く末と、平穏な時代に立ち返ろうとする女の複雑な心情を冷静に見つめる。

坂口安吾

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野村は戦争中一人の女と住んでゐた。夫婦と同じ関係にあつたけれども女房ではない。なぜなら、始めからその約束で、どうせ戦争が負けに終つて全てが滅茶々々になるだらう。敗戦の滅茶々々が二人自体のつながりの姿で、家庭的な愛情などといふものは二人ながら持つてゐなかつた。

女は小さな酒場の主人で妾であつたが、生来の淫奔で、ちよつとでも気に入ると、どの客とでも関係してゐた女であつた。この女の取柄といへば、あくせくお金を儲けようといふ魂胆のないことで、酒が入手難になり営業がむずかしくなると、アッサリ酒場をやめて、野村と同棲したのである。

女は誰かしらと一緒になる必要があり、野村が一人ものだから、あなたと一緒にならうか、と言ふので、さうだな、どうせ戦争で滅茶々々になるだらうから、ぢや今から滅茶々々になつて戦争の滅茶々々に連絡することにしようか、と笑つて答へた。なぜなら、どうせ女は野村と同棲して後も、時々誰かと関係することを野村は信じて疑はなかつた。厭になつたら出て行くがいゝさ、始めから野村はさう言つて女を迎へたのである。

女は遊女屋にゐたことがあるので、肉体には正規な愛情のよろこび、がなかつた。だから男にとつてはこの女との同棲は第一そこに不満足、があるのだが、貞操観念がないといふのも見方によれば新鮮なもので、家庭的な暗さがないのが野村には好もしく思はれたのだ。遊び相手であり、その遊びに最後の満足は欠けてゐても、ともかく常に遊ぶ関係にあるだけでも、ないよりましかも知れないと野村は思つた。戦争中でなければ一緒になる気持はなかつたのだ。どうせ全てが破壊される。生き残つても、奴隷にでもなるのだらうと考へてゐたので、家庭を建設するといふやうな気持はなかつた。

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