論語物語
本文約131,400字 ・ 読了時間 約263分
あらすじ(AIが作成しました)
孔子の教えを記した論語の章句をもとに、門人たちを現代人に近い人間として描き出す物語集。作者は、過去の求道者としての彼らの姿を通して、自己や周囲の人間が抱える弱さや醜さを投影する。史実の正確な考証を意図せず、それぞれの物語を独立させることで、論語を現代人の意識で読み解き、個人の心のあり方を探求することを試みる。東洋の古典である論語を再び国民の手にとりもどし、日本社会の精神の基調となっていた道を知ることを願う。
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序文
論語は「天の書」であると共に「地の書」である。孔子は一生こつこつと地上を歩きながら、天の言葉を語るようになった人である。天の言葉は語ったが、彼には神秘もなければ、奇蹟もなかった。いわば、地の声をもって天の言葉を語った人なのである。
彼の門人達も、彼にならって天の言葉を語ろうとした。しかし彼等の多くは結局地の言葉しか語ることが出来なかった。中には天の響を以て地の言葉を語ろうとする虚偽をすら敢てする者があった。そこに彼等の弱さがある。そしてこの弱さは、人間が共通に持つ弱さである。吾々は孔子の天の言葉によって教えられると共に、彼等の地の言葉によって反省させられるところが非常に多い。
こうした論語の中の言葉を、読過の際の感激にまかせて、それぞれに小さな物語に仕立てて見たいというのが本書の意図である。無論、孔子の天の言葉の持つ意味を、誤りなく伝えることは、地臭の強い私にとっては不可能である。しかし、門人達の言葉を掘りかえして、そこに私自身の弱さや醜さを見出すことは、必ずしも不可能ではなかろうと思う。
この物語において、孔子の門人達は二千数百年前の中国人としてよりも、吾々の周囲にざらに見出しうる普通の人間として描かれている。そのために、史上の人物としての彼等の性格は、ひどく歪められ、傷けられていることであろう。この点、私は過去の求道者達に対して、深く深くおわびをしなければならない。
しかし、論語が歴史でなくて、心の書であり、人類の胸に、時処を超越して生かさるべきものであるならば、吾々が、それを現代人の意識を以て読み、現代人の心理を以て解剖し、そして吾々自身の姿をその中に見出そうと努めることは、必ずしも論語そのものに対する冒ではなかろうと信ずる。